Dilemma
クリスマス休暇にシリウスは帰ってこなかった。
フクロウ便が私宛に届いてポッターの家のクリスマスパーティーに出席していると言うことと、それを親には秘密にして欲しいと言うことが書いてあった。
私はその言葉通りにシリウスの居場所を知らないふりをした。
シリウスの反抗に母親は狂った様に叫び父親はため息をついた。大切にしてきた跡継ぎ息子の反抗を予想もしたことがなかったのだ。
そんな両親を怖がったレギュラスは私のあとをいつも付いて回っていた。
「お姉ちゃん。」
レギュラスは幼い頃のシリウスとそっくりで、私の元へ駆け寄ってくる姿はとても可愛らしい。
その姿を見ていると、懐かしさがこみ上げてきた。
毎年ブラック家ではクリスマスパーティーが行われる。ベラトリックスたちやルシウスもそれに来ていた。
ただのクリスマスパーティーだったらもっと純粋に楽しむことができただろうに、これは普通のクリスマスパーティーではないのだ。
残念なことに、ここに集まるのは大抵、闇の魔術に見せられた純血思想の持ち主である。
よく知られた純血の一族がここぞとばかりに着飾りやって来るこのパーティーは退屈なものだ。
愛想笑いを浮かべて、挨拶をする。これがブラック家のパーティ。

薄いピンクのドレスに身を包んで私は会場を歩き回っていた。
時々声をかけられては挨拶を交わし、笑顔で応対する。
ベラトリックスはロドルファスと共に、レストレンジ家の面々と会話をしていた。
こんなパーティー、本当は参加したくないのだが主催者の家の者が出席しないと言うことは一家の恥である。
シリウスが行方不明だ。それだけでも、このブラック家にとって大きな問題であると言うのに私までここで欠席だとイメージダウンに拍車がかかる。
由緒正しきブラック家が作り上げてきたイメージを私ごときが壊すことは許されない。
行き場の無い私は会場を歩き回ることでしか時間を潰す方法が無かった。
「」
肩を叩かれ振り返ると底にいたのはルシウスで、黒いパーティーローブを身に纏っていた。
彼の美しい銀色の髪がその黒と相反して、とてもよく似合っていた。
不敵な笑みを浮かべたまま彼は、きれいだ、と私を褒めた。ありがとう、と私は適当に返事をする。
ルシウスのほうが綺麗よ、と私が苦笑いを浮かべた。
ルシウスは美しい人間の部類に入ると私は思う。
ブロンドの髪は私の持つ黒髪と比べ物にならないくらい美しく輝いている。
そして彼の灰色の目は透き通っていて、どこか冷たい印象を人に与える。
白く滑らかそうな肌は女の子も顔負けで、私はルシウスを見ると自分が女の子失格であるかのように感じられるのだ。
しかし彼が美しいのは外面だけで、実は中身は冷酷である。
私はルシウスの優しさが表面だけであることをどこかで感じていた。しかし、それに廻りは気付かない。
彼はいつも先を見通して行動していて、その優しさにもきっと裏があるのだ。
「私と踊らないか?」
一曲ぐらい踊ったほうがいい、と諭すような声でルシウスは言った。
確かに、今日のパーティーで私は一度も踊っていないことに気が付いた。
そうね、と私はルシウスの提案を受け入れてダンスホールの中心へと向かった。
ルシウスのエスコートは完璧で、さすがマルフォイ家、教育が行き届いている、と感心した。
踊り始めてちらりと金色の髪が視界に入った。ナルシッサだ。
少し私はルシウスと踊ったことを後悔していた。ナルシッサはルシウスのことが好きなのだ。
踊る相手などルシウス以外で選ぶ事だってできたはずなのに。考えが足りなかった。
しかし、彼女の気持ちも確かでないうちに私のほうから謝りに行くのも、ルシウスとのダンスを途中で中断するのも変だと思いそのままダンスを続けた。
「シリウスがいなくて寂しいのか?」
ルシウスは私がうわの空な理由をシリウスの不在だと思ったようだった。
「ええ、今までずっと傍にいたから。」
そうか、とルシウスは短く答えた後、言葉を続けた。
「しかし、きっと直ぐ戻ってくるだろう。シリウスはブラックが一番似合っているのだから。」
うちの両親も同じ考えだった。だから、今もシリウスを無理矢理連れ戻さず放置している。
きっとブラック家なら強硬手段を使えばシリウスの居場所を着きとめ連れ戻すことぐらい簡単だ。
けれど、私は嫌な予感がしていたのだ。
シリウスはきっと、もう戻ってこない。
家に戻ってくることはあっても、心までは昔のようにブラック家に戻ってこないのだろう。
あのグリフィンドールに入る時のシリウスの笑顔を見た時、そう直感した。
私はその話題を避けようとして、違う話題を降ろうと思った。
しかし、簡単に話題がぽんぽんと浮かんでくるわけでもなく、私の口から漏れたのは間抜けな言葉だった。
「ルシウスの髪ってきれいね」
言った瞬間に、先ほどまでの話と何の脈絡もないと言うことに気がついた。
これでは話題を逸らそうとしたことが丸分かりである、失敗だ、と私は思って赤面した。
「の髪のほうが綺麗だと思うが」
ルシウスの灰色の瞳が私の髪を見つめた瞬間、どきり、とした。
美しい人間だと思っている相手から褒められて、すこし舞い上がってしまいそうだった。
すると穏やかな調子の曲が終わり、私たちは踊るのを止めた。彼は私があまりダンスを好まないことを知っていた。
グラスに入った綺麗な液体を飲み干すと、さわやかな気分が体中を駆け抜けた。
ふと気付くとルシウスが自分を見つめている。また、私はどきりとした。
すると彼の指が私の黒い髪に触れた。私は髪を結う事が面倒で、どうせ自分の家のパーティだからと髪をそのまま降ろしていた。
綺麗だ、とルシウスは先ほどの言葉を繰り返した。
その時ルシウスの背中ごしに見えたナルシッサは泣きそうな顔を浮かべて、その場を立ち去るのが見えた。
私は急いでナルシッサを追おうとして、ルシウスの元から離れたが見失ってしまった。
変わりに見つけたアンドロメダの者とに駆け寄り、ナルシッサを見なかったか聞いたが、見ていないと彼女は答えた。
私がため息をつくと、アンドロメダはすべてを悟ったように「気にすることは無いわ」と言った。
アンドロメダはいつだって何もかもを知っているように思えた。従姉達の仲で唯一、彼女は闇の道にあまり興味もなさそうだった。
だから私はアンドロメダのことが純粋に好きだった。
ベラトリックスがブラック家にとって忠実なシェパードのような存在だとしたらアンドロメダはブラック家では海の中のクラゲだ。