Dilemma
クリスマス休暇が終わると、今度は課題に追われる日々が始まった。
魔法薬学はセブルスが居るから難しい課題でも安心だ、そして、例の集まりのおかげで闇の魔術に対する防衛術の知識は非常に増えている。
ただ、難点はそれとともに、闇の魔術自体の知識もどんどん増えてきていると言うことだった。
問題は魔法史だ、歴史はどうも好きになれない。
今までずっと家で教えられてきた歴史というものは『由緒正しきブラック家』であり、そのイメージが私の中にこびりついている。
そのマイナスな感情が、魔法史に対するやる気を抑制していた。
図書館で魔法史の資料を探そうと思った。
セブルスは忙しいそうでレポート作成に付き合ってくれなかったが、ほかの人を誘う気にはならない。
私はリリーと最後に会った図書館に、しばらく来ていなかった。
もしも、リリーに会ってしまったらどうすればいいか分からなかったから来ることができなかった。
しかし、このレポートは教科書だけの知識では到底出来そうにない。
今日は天気がとても良い、こんな日に図書室に来る人なんて居ないはずだ、と私は自分自身を納得させて図書館へ向かった。

「分からない。」
レポートは三行目で詰まってしまった。もう、書くことが思い浮かばない。
こんな調子でこの羊皮紙を文字でいっぱいになんてできそうにもない。私は絶望を感じていた。
アンドロメダは確か魔法史が得意だったはずなのだが、今日はどこを探しても見つからなかった。
手伝ってもらえたら、という淡い期待は打ち砕かれた。
どうしよう、提出の期限は明日なのに。頭を抱えて机に突っ伏すとその衝撃でインク瓶から少しだけ中身が飛び出し黒い染みを羊皮紙に作った。
「どうしたの?」
上から降ってきた声にぎょっとした。顔を上げるとそこには眩しい笑顔を浮かべたリリーがいた。
どうして私に声をかけてきたのだろう。私は彼女に嫌な思いをさせたのに。
あの日のことをリリーは忘れてしまったのだろうか。もしくは、リリーは文句を言いに来たのかもしれない。
「気分でも悪いなら医務室まで一緒に行きましょう」
文句を言いに着たような声音ではなく本気で彼女は私を心配してくれていた。
信じることなど簡単にできない。だって、あの日リリーが泣いていたのは私たちの所為なのだから。
「怒ってないの?」
私の口から出た声は掠れて、惨めっぽかった。
私はずっとリリーは私に対して怒っているのではないかと不安だった。
「何故私がに怒るの?私が怒ったのはポッターたちよ。」
リリーは拳を握り、憎きポッターは私がちゃんと叱っておいたから、と胸を叩いた。
もう嫌われて、目もあわせてもらえないんだと思っていたから拍子抜けした。
今日まで授業で彼女を見かけてもちらりとしか見ることをしなかった。目が合ってしまうと、逸らされるのが怖かったからだ。
心の中にあった冷たい不安が小さくなるのが分かった。リリーの温かい笑顔がそれを溶かしている。
ごめんなさい、ありがとう。
「私はの友達で居たいわ。」
はどう思っているの?、と聞かた。私はもちろん、リリーの友達で居たい、と答えた。
すると彼女は私の手を握った。そして、よかった、と安堵のため息を吐いた。
「だって、は私の最初のホグワーツでの友達だもの。」
それは私にとっても同じだ。同い年の友達など今まで居なかった。
唯一居たのはシリウスだったが、彼は友達ではなく双子の兄、つまり自分になによりも近い存在。
友達と言うものに憧れていた、兄や姉のような存在、そして弟ばかりに囲まれていただけに友達というものに一種の憧れを持っていた。
だからリリーの口からその言葉が出た瞬間くすぐったい気持ちに襲われた。
「けど、一番の問題は寮よね。周りが五月蝿いもの。」
リリーが指しているのはポッターのことだと私は思った。しかし、本当に怖いのはポッターではない。
グリフィンドールは直情型で真っ向から向かってくる。
その反対に、スリザリンは粘着質で裏から恐ろしいほど狡猾に手を回し行動を起こす。
こんな人気のない図書館で会うならまだしも、人の多い廊下などで会話でもしようものなら引き離されること確実である。
一方はマグル出身のグリフィンドール、もう一方は純血家の出身のスリザリン。
こんな奇妙な組み合わせは見たことが無い。両方の寮で何かしら問題が起こることは必死である。
「そうだ、あそこなら大丈夫かもしれないわ。」
リリーは手をパンと嬉しそうに叩くと、私の手を引きどこかに行こうとした。
それを私が必死に押しとどめると、リリーは怪訝そうな顔をしてから私の座っていた席を見て納得したように笑った。
「あなた、まだレポートできてないのね。」
「だって、魔法史苦手だから…」
リリーはぷっと吹き出すと、隣の席に腰を下ろした。
手伝ってあげる、魔法史は得意なの。
救いの女神が舞い降りた。リリーがいつも以上にきらきらと光って見えた。
なんとかレポートを終わらせた後リリーは私の隣を歩きながらある場所へと向かった。
そこは女子トイレだった。しかも、嘆きのマートルが住み着いているという噂の。
私は未だマートルと会ったことはなかったが色んな噂は聞いていた。それの殆どが良い物ではなかったけれど。
「こんにちわ、マートル。」
リリーがふわふわと浮いている黒髪のメガネをかけた少女に話しかけた。
すると彼女はひぃっと叫んだ後、一番奥のトイレに逃げ込んだ。
一瞬、便座を投げつけられたと言う噂を思いだし身構えたが、何も怒らず聞こえてくるのはすすり泣く声だけだった。
「彼女、ちょっとシャイなのよ。」
リリーはマートルの失礼な態度を気にした様子も無かった。
相変わらず心の広い子だなぁと感心した。
「ここならあまり人も来ないわ」
確かにここには人は来ない。興味本位でやって来る一年生もそろそろマートルに飽きてきたはずだ。
センスがいいとはあまり思えなかったが、人目を避けるには最高の場所だと思った。
「そうね、マートルが便座さえ投げつけてこなかったら最高の場所ね」
私が小声でそういうとリリーは口を押さえ声を殺して笑った。
声を出して笑うと本当にマートルがそのことを実行しそうだと思ったからだ。