Dilemma
夏の暑き日々にも従姉達やルシウスは足繁くブラック家を訪れていた。
それは毎年同じ光景でもあるのだが、彼女らはシリウスをどう扱ってよいのか悩んでいるらしかった。
かつては溺愛していたシリウスが今ではこの家で疎まれる存在になっているということが私は少し悲しかった。
しかしシリウスは「仕方ない」という一言で彼女達の雰囲気を纏めた。
グリフィンドールに入った次期当主、ブラック家でシリウスはかなり異質な存在だった。
ルシウスの態度は驚いたことに変わらなかった。
けれど、彼の態度は昔からシリウスに対して必要以上のものを与えなかったし求めないような物だったから当然といえば当然かもしれない。
ルシウスはグリフィンドールに入って居心地が悪いならあの例の集まりに来るといい、と提案したが、シリウスはやんわりとそれを断っていた。
私としてはシリウスがあそこに来てくれたらすこしは落ち着くのだが、嫌がるシリウスにあんな場所を強く勧めるわけにもいかない。
レギュラスは前に見たときよりも大きくなっていて、シリウスによく似てきた。
良く考えてみると来年、レギュラスはホグワーツ入学の年齢になる。
いつの間にそんなに大きくなったのだろうと、弟の成長を喜ぶ反面、寂しい気持ちもあった。
可愛らしかったレギュラスもそのうち反抗期などが来るのかなぁ、と呟きシリウスのほうをちらりと見るとシリウスは私の言いたいことがわかったらしく、むすっとした。
昔はシリウスも、もっと可愛らしかったのに。今では背もにょきにょき伸びて可愛いと言う言葉では収まらなくなってしまった。
また、母親のシリウスに対する執着心は少し薄れたようでそれがレギュラスに向かっていく様子を私たちは見ていることしかできなかった。

私はテラスでアンドロメダとベラトリックスとお茶を飲んでいた。目の前には甘いケーキと美味しい紅茶が絶妙な具合に私の心を癒してくれていた。
シリウスはどこかへ出掛けてしまい、暇をもてあましていたところで彼女達が尋ねてきてくれたのだ。
「シリウスがホグワーツに残れることになってよかったわね。」
アンドロメダは私がシリウスと離れるのが嫌だということを重々承知していた。
しかしベラトリックスは相変わらずシリウスがグリフィンドールに入ったことに不満を抱いているようだった。
私が居るから口には出さないが、きっと心の中では「グリフィンドールで生活するなんて、ブラック家の恥。ダームストラングに編入しなおせばいいものを…」などと考えているのだろう。
私はそれを感じているが気付かないふりをし、アンドロメダに笑いかけた。ベラトリックスはブラック家に拘りすぎている。
「ねえ、。ルシウスのことどう思う?」
話題を変えようとベラトリックスは私に突然ルシウスの事を聞いてきた。私は質問の意図がよく分からかったので「兄みたいな存在かな」と答えた。
油断できないような性格のルシウスだが基本的には優しくその美しさには心奪われる。
シリウスは兄ではなく、自分の分身であるかのような感じなのでルシウスと話していると兄ができたような気分になることもある。
そう答えると、ベラトリックスは満足そうにうなずいていた。意味の分からない質問だったが、答えは十分彼女の満足の範囲内だったのだろう。
「そういえば、アルファード叔父さんはどうしてるのかしら」
アンドロメダが思い出したかのように呟いた言葉で私は叔父さんのことを久しぶりに思い出した。
忘れていたことにささやかな罪悪感を持ちながらも、帰ってこない叔父さんを懐かしく感じた。
ブラック家らしい黒髪を持った叔父が快活に笑う姿が脳裏を掠めた。
「音信不通になってからもう二年も経つのね」
私たちの叔父であるアルファード・ブラックは二年前に突然姿をくらました。フクロウを送っても連絡を取ることはできなかった。
彼は優しく賢く、ブラック家の親戚の中でも私は特に彼を慕っていた。それはシリウスも同じでよく叔父さんに遊んでもらった。
そんな私たちは彼のことが心配で、父親や母親に彼のことを尋ねてみたのだが、はっきりとした返事が帰ってきたことは無い。
しかし叔父さんの失踪に対してそんなに彼らは慌てておらず、探そうともしないのできっと両親は叔父さんが今どこで何をしているかを知っているのだろうと思った。
アンドロメダの疑問を聞いてベラトリックスは意味深な微笑を浮かべ、「叔父さんはきっと元気だわ」といった。
不思議そうな表情をアンドロメダは浮かべたが、姉がその微笑の意味を教えてくれるはずが無いことが分かっているので彼女は口を噤んだ。
終始和やかだったが、真意の汲み取れないお茶会が終わり私はレギュラスと庭で散歩をしていた。
気が付いたことが一つ。レギュラスは何時の間にか私のことを「姉さん」と呼ぶようになりシリウスのことを「兄さん」と呼ぶようになった。
今まではお姉ちゃん、お兄ちゃん、だったのに、それが姉さん。弟の成長を耳でも感じ取ることができた。
「ホグワーツはどんなところなんですか」
離れていた一年で敬語もだいぶ上達したようだ。ブラック家の教育の賜物だ。
レギュラスは来年入学なのでそろそろホグワーツに興味を持ち始めたらしい。目を爛々と輝かせこっちを見ていた。
ブラック家の広大な庭の木陰に私たちは腰を下ろし、私はホグワーツのことを話し始めた。
寮での生活や授業、動く階段。湖の大イカに手を捕まれた時の話をすると、レギュラスは自分のことのように驚いたり胸をなでおろしたりしていた。
「レギュラスも、もうすぐ行けるわ。」
これから彼は一年間ホグワーツを夢見ながらこの家で生活していくのだ。
何だかレギュラスをこの広い家に残していくのが今更ながら可哀想にもなってきたのだが、それも一年の我慢だ。
ホグワーツは私やシリウスに与えたように、レギュラスにも良き友人や楽しい生活を与えてくれるだろう。
私にとってホグワーツはこの家とあまり変わらないけれど、シリウスにとってはホグワーツは楽園のような存在らしい。
彼は今日も家に居るのが嫌で行く先も告げずにどこかに一人でふらりと出掛けてしまった。
私はそれに付いていきたいとは思わなかった、私が居るとシリウスが求めたブラック家から離れるという自由が確かなものでなくなってしまうと思ったからだ。
一緒に居る限り、この家を忘れることはできない。