Dilemma


シリウスの話を聞いている限り、ポッターと言う人間は非常に賢く、それでいて愉快さを決して疎かにする事の無い人間であるという。
私にとって彼は自分を嫌っているという負の感情を抱く相手なのだが、できれば穏便に付き合いたい。
リリーを泣かせた相手ということで嫌われてしまったところを見る限り、彼はリリーのことが好きなのだろう。
青春を謳歌するのはよいのだが、他人に勝手な思い込みで迷惑をかけるのはどうかと思う。
そういうわけで、私はポッターと仲良くしようとは決して思わない。しかし、穏やかに過ごしたいのも本心だ。
一番穏やかに学校生活を送るためには、彼と接触しなければよい。幸運にも私は彼と正反対の寮に居る。
つながりといえば、シリウスとリリーぐらいなのだ。

ピーターは、ホグワーツの入学の日に話して以来しゃべっていなかった。
彼はこちらを時々盗み見るようにちらりと視線をよこしたが、行動には何も出なかった。
少し寂しいような気もするがピーターの性格を考えると、スリザリンの生徒と仲良くできるような精神を持っている人間だとは思わなかった。

そして、最後にルーピンのことだが、彼の性格を私はまったく把握できていない。
いつもにこにことしていて、穏やかなルーピンはシリウスとポッターを宥める役だった。
そんなルーピンと関わる機会など一年間でまったくなく、会話もしたことがない。聞いたことのある柔らかい声はいつも私とは別の方向に向かって発せられていた。












「あ、シリウス。」

私とシリウスはダイアゴン横丁に買い物に来ていて、今は最後の買い物である教科書を手に入れるためフローリシュ・アンド・ブロッツ書店にきていた。
本を最後に回したのは、重いものを持って歩き回る自信が無いからだ。
ここで物を軽くするための魔法でも使いたいところなのだが、あいにく生徒は夏季休暇の間魔法は使えない。残念だが、本は普通に持ち運ばなくてはいけない。
魔法薬学はこれ闇の魔術に対する防衛術はあれ、などとシリウスと協力し合って指定の教科書を探した。
そんな時、後ろから呼び止められたので振り向いてみるとそこにはルーピンがいてシリウスに手を振りながら寄って来た。

「リーマスも教科書買いに来たのか」

「うん、そろそろ学校も始まるし」

ルーピンはシリウスの後ろにいる私を見て、にっこり笑った。その反応が以外で私は驚いてしまった。
グリフィンドール生に嫌がられて目を背けられるならまだしも、微笑みかけられるなんて想像もしていなかった。
彼はポッターの友人であるから、私にとって負の感情を抱いていると思っていたが違うようだった。

「僕はリーマス・J・ルーピン、よろしく。」

名前を知っているのはシリウスから話を聞いているからだとルーピンは教えてくれた。柔らかい声が耳に心地よい。
握手をすると、ルーピンの手はほっそりとしていた。細身だから指も細いようだ。
そんな細身なルーピンだったが手で数冊の重そうな教科書を抱えているのに安定して歩いていたところを見ると、男のなんだなと感じた。

「ルーピンは一人で来てるの?」

私がそう聞くとルーピンは、リーマスでいいよ、と言った後で一人だよと付け加えた。
話を聞いていると両親は共働きらしい。感じのよい話し方に私は好印象を持った。
本を購入した後、あとは帰るだけとなったのでお茶でも飲んでいかないかという話になり三人でカフェに入った。

シリウスはコーヒーを頼み、私とリーマスはケーキと紅茶をウエイトレスに頼んだ。
レモンティーに入った氷がグラスに当たってストローを動かすたびに涼しげな音を立てた。
私はガトーショコラ、リーマスにはストロベリータルトが運ばれてきた。それを見たシリウスはしかめっ面を作った。
シリウスは甘いものがあまり好きではないし、その匂いも好まない。それを知っているが私は気にせずフォークを手に取った。

シリウスはリーマスとなにやら熱心に私にはよく分からない話をしていた。
所々聞こえたのは「クソ爆弾」だとか「ドクター・フィリバスター」とかいう単語が聞こえたがそれが何を意味するのかは知らなかった。
話題がひと段落ついたところでリーマスは私のほうを向いて、そのケーキ美味しそうだね、といった。

「僕、甘いもの大好きなんだ。」

先ほど紅茶のカップに大量の砂糖を投入していたところを見ていたので、納得することは容易だった。
しかし知っている男性陣は基本的に甘いものが苦手なので世の中にこのような男の人が居たんだという興味もあった。
今までシリウスとポッターの後ろに居るおまけのような存在だったルーピンがリーマスという存在に変わり目の前で輝き始めた。
もしかしたら、仲良くなれるかもしれない。
良く考えてみると、リーマスは私を嫌っている様子もないしセブルスに対して酷い扱いをすることもないのだ。
一つだけ問題点をあげるとすれば、私はリーマスが純血かどうかを知らない。セブルスの反応は半分それで決まってしまうだろう。
まず半分が寮に対する非難、もう半分は純血か混血か、またはマグルか。彼の尋常でない血への拘りはこの一年で十分理解したつもりだ。
純血であればリーマスと仲良くすることもそんなに酷く反対されないかもしれない、という甘い期待を私は持った。
しかし、私はセブルスに嫌われたくは無い。なんといっても日々一番長く一日を共に過ごすセブルスという存在を失うと私は困るし寂しい。
セブルスのことは好きなのだが、困ったところもある。それをすべて受け入れることはできなかったが、配慮しようという気はあった。

じゃあ、また学校で。と手を振るリーマスに思わず手を振り替えした私を見てシリウスは少し嬉しそうだった。
今までシリウスの友人と私はうまくやれていなかったので彼はそれを寂しく感じていたらしい。
ポッターとは今のところ無理だがリーマスとなら仲良く慣れるかもしれない気がした。シリウスはお前とリーマスは気が合うかもな、と呟いた。
紙袋に入った本がずしりと自己主張を始めたが、あまり気にならなかった。それはきっと、新学期への期待が私の神経を麻痺させていたのだろう。
ふわふわとした今まで会ったことのないタイプの人間であるリーマスの存在に惹かれているような気がして、胸がざわついた。

新学期になったら、また話せる機会があるのだろうか。もっと話してみたい、もっと仲良くなりたい。
しかしポッターが目を光らせてる限りあまり近づくことはできないのだろう、とすぐに思い直して悲しくもなった。
この名前もつけることのできない感情をシリウスに言うことはできなかった。