Dilemma


二年目のホグワーツ行きの汽車のなかの私たちはは去年とは違い、別々のコンパートメントに乗っていた。
期待と希望に夢馳せた一年前だったが、今は大分と落ち着いた気持ちで風景を眺めることもできている。
シリウスはきっと今頃ポッターたちと喜びの再会を果たしているのだろうと想像した。けれども、夏休みはずっとシリウスと過ごしてきたので安心感はあった。
私のことをシリウスは忘れてなんかいない。双子なのだから。
私しか乗っていなかったコンパートメントにセブルスが遅れて乗ってきて、私は一人ではなくなった。
時折見える新入生が初々しく感ぜられ、私たちも去年はあんなふうだったのかしら、と懐かしく思えた。

新入生歓迎の宴も終わり、スリザリンに戻ってきた。今年は何のハプニングも無い組み分けの儀式だったので寮の中も静かに新しい寮生を歓迎している。
寮の中を見渡すと去年の七年生の姿が消えていた、卒業して行ったのだ。
寂しいとも思うが、新入生が居れば卒業生が居るのだって当たり前のことだから仕方ないのだと自分を納得させた。
いつか私もここを卒業していくのだろう。そうしたら、あの家にずっといなくてはならないのだ。
恐ろしいと思う反面、私の戻る場所はあそこしかないのだという事実を受け入れざるを得ない自分の不甲斐無さに嫌気が差した。
きっと、シリウスは卒業してもブラック家には戻ってこないのだろう。彼はそういう勇気も仲間も持っている。
私はどうだ、勇気など持っていない。持っていればグリフィンドールには入れていたはずだ。











セブルスに夏季休暇はどうだったか尋ねるとまあまあだという返事が帰ってきた。
休暇中に私はリリーとフクロウでの手紙を交換していたのだがセブルスとはそのような連絡は取っていなかった。
これが女の子と男の子の友人の差なのだろう、更にセブルスは手紙をまめに書くような人種にも見えない。
そして私たちは手紙で話すような話題を持ち合わせていなかった。これだけで、もう手紙を交換する理由などは無い。
セブルスと再会できて嬉しく思ったが、会えなくて寂しいとは思わなかった。
会えなくて寂しいのはリリーやリーマスの方だった。セブルスとは学校に行けばいつでも会えるからである。
去年の一年間で、女子の大半は私が取り巻きをつれるのが好きではないことを悟ったようであまり近づいてこなくなった。
好かれようと思ってしていたことなのだろうがそれが裏目にでるということを学んだのだ。

二年目のホグワーツの生活は非常に過ごしやすい。階段の動きにも規則性があることも覚えた。
最初の頃は予想もしない階段の動きに迷惑をこうむったのだが、今ではすいすい行きたい場所にもいける。
シリウスとは今年はフクロウで時折近況報告を交わしていた。それは夏の間にお互いの間で約束したことだった。
そこにはポッターとの悪戯の話だったりピーターの失敗談だったりリーマスのお菓子好きに対する呆れなどが書き込まれており、いつのまにか私は彼らについての知識が多くなっていた。
授業で一緒になる時は、シリウスやリーマスとよく目が合った。リーマスは時々ポッターに見つからないように手を振ってくれたので、私もセブルスに見えないところで手を振り替えした。

「セブルス、その服どうしたの…」

ある日セブルスはローブをびしょびしょに濡らして談話室へと戻ってきた。私は杖を振ってそれを乾かそうとしたが、服は何の変化も見せなかった。
どうしてそんなことになったのかと聞くとポッターとブラックの仕業だと低い声で唸った。セブルスの黒い髪からは水が滴り落ちた。
突然廊下で後ろから謎の物体が投げつけられそれが当たって全身ずぶぬれになったらしい。その物体を投げたのがポッターとシリウスだったらしい。
何でもその液体は魔法では乾かず、自然乾燥を待つしかないという厄介なものであるらしく、それを言い残してポッターたちは走り去ったそうだ。
セブルスは怒りにわなわなと振るえ、忌々しいポッターめ、などとぶつぶつ呪いの言葉を復唱していた。

その三日後に今度は両足がぴったりとくっついて離れなくなったセブルスが廊下を這っているのを私は発見した。
聞くまでもなく、それはポッターとシリウスの仕業だった。どうして彼らがそんなことをするのか私には分からなかった。
セブルスに聞いても彼は知らないの一点張りで、埒の明かない悪戯がしばらくの間続いた。
彼らがどうしてそんなにセブルスに悪戯するのか、何か理由があるはずなのだが本人が知らないというのだからどうにもならない。
私はとりあえずセブルスから目を離さないようにした、そうすればシリウスは彼にちょっかいを出すことも無いだろうと思ったからだ。

私の予想は当たり一週間の間セブルスの身には何も起こらず平和な日々が訪れた。
それを見て安心したので、私は久しぶりに中庭に出ることにした。あまりセブルスは外にでないのでインドアな生活が続き疲れていた。
新鮮な空気を吸い込み私はベンチに座って本を広げた。この間、書店へ教科書を買いに行った際に数冊小説などを買い込んでおいたのだった。
静かな雰囲気とやわらかな日差し、きらきらと光る湖面を目の前にして読書が長続きするはずもなく、私はその美しい風景を眺めることに専念していた。

「こんにちわ」

ベンチの隣に人が座っただけでなく声をかけてきたことに私は驚きその相手を見るとそれはリーマスだった。
ここの景色綺麗だよね、と彼は湖面を見つめていた。私が景色を見つめていたところを見ていたのだろう。しかし声をかけてくるのが不思議でならなかった。
グリフィンドール生がスリザリン生に声をかけてくるなんて思っても見なかったのだ。今までリリーぐらいしか私はそんな存在を知らない。
しかも私とリーマスはシリウスを通じて知り合った関係なのでシリウスなしで話をするという事態を想像していなかった。

「今日は一人なんだね」

「外の空気がすいたかったし」

セブルスが居るとあんまり外に出たがらないから、と付け加えるとスネイプらしいとリーマスは笑った。
爽やかなそよ風がすり抜けていく感覚を味わいながら私たちは会話を続けた。

「最近、シリウスがセブルスに変な悪戯をしてるんだけど何か知らない?」

私は気になっていたことをリーマスに聞いてみることにした。彼なら何か知っているかもしれないと思ったからだ。
するとリーマスは一瞬目を見開いたがすぐに微笑を苦渋をごちゃ混ぜにしたような複雑な表情を作った。
そして彼は目を細め湖で水浴びする大イカを眺めながら、事の顛末を事細かに話し始めた。