Dilemma
ジェームズはスネイプが何も気にする事もなく『穢れた血』という言葉を吐き捨てたことから彼を毛嫌いしていた。
最近では姿を見るだけで絡んで嫌がらせをする事もよくあった。
スネイプがもしも見知らぬハッフルパフ生にその言葉を吐いたならジェームズの対応は変わっていたかもしれない。
運の悪い事にスネイプはグリフィンドールのリリー・エヴァンズ、つまりジェームズが好意を寄せている相手にその忌み嫌われる言葉を投げた。
それでスネイプはジェームズのブラックリストのトップに名前が載ってしまった、消せないほど濃く彼の脳にインプットされてしまったのだった。
今ではその原因を忘れそうなまでにスネイプに対しての嫌悪感を募らせていて、どうすればスネイプを無様な様子にできるかをひたすら追い求めていた。
シリウスは元々スネイプの事を好いては居なかったが、嫌いでもなかったようだ。
しかしスネイプはシリウスの双子の妹であると普段から良く行動をしていたためシリウスの目に留まった。
シリウスはその頑なに純血を好むスネイプを見てブラック家の人々と彼の姿を重ね合わせ、無意識に敵対心を持っていた。
更にの隣に今までずっといたのは自分だったのに、それがスネイプに変わってしまった事に対する些細な嫉妬心と何も出来ない自己嫌悪に苛まれスネイプにそれをぶつけていた。
けれど、彼はその真実に気付いてないようだった。
気付いているのは僕だけでシリウスは普段から「あいつを見ているとイライラする」と抽象的な表現でスネイプを評していた。

スネイプ苛めの発端をに話すと彼女は溜息をつき、どうしようもない、と呟いた。
確かにどうしようもないのだ、ジェームズの脳は一度覚えた事は中々忘れないしシリウスの苛々も根本から解決することなど出来ない。
スネイプの方だってあの性格なのだから簡単に自分の思想を変えることはしないだろう。
「シリウスはそんなこと気にしなくていいのに」
消え入るような声が宙に消えた。確かにシリウスは勝手に妹の心配をして勝手に嫉妬心を彼女の友人に抱き、勝手に自己嫌悪に襲われている。
そんな感情など持たない方がきっと楽しく過ごす事ができるだろうに、と彼女は思っているのだろう。
シリウスがその感情を無視しない限り彼はブラック家から逃れる事はできないのだ、しかし僕らはそれを本人に言うことは出来ない。
彼はそのことに自分で気付かなければいけない。
「セブルスには諦めてもらうしかないのかな」
隣で半ば投げやりにが言うのを聞いて僕は噴出した。すると彼女は訝しげに僕のほうを見た。
どうして笑うの、と彼女は聞いた。
「スネイプが友達なら、ジェームズ達に注意するとかはしないのかい?」
彼女はうーん、と唸ってから「しないなぁ」と答えた。
悩む時に顎に手を当てる様子がシリウスと良く似ていたので、やはり双子なのだと僕は実感した。
シリウスとはあまり似ていない、黒髪や黒い目顔のつくりは何となく似ているのだが双子と分かるほどのものではない。
しかしふとしたときのの仕草がシリウスを彷彿とさせる、それがやはり愉快だった。
「だってシリウスに注意したらそれはそれで逆効果になりそうだし、ポッターは私の話なんて聞かないでしょう。」
彼女は言う事は正しかった、シリウスがスネイプの存在に嫉妬しているのだとしたらそこで彼女がスネイプを庇うのは良い案ではないだろう。
更にジェームズはスネイプの次にスリザリンではの事を嫌っている節があった。
エヴァンズを泣かせたとして記憶に残っているのだから、彼にとって最悪の相手であろう。
シリウスが居る手前ではあまりに対して反応はしないが、時折睨むように彼女を見ているのを僕は知っていた。
「頑張ってセブルスには耐えてもらわなくっちゃ」
僕が言えばスネイプ虐めは少しはマシになるのだろうか、と考えた。
僕はスネイプの事は別に嫌っていない。好きでも嫌いでもない相手が親友達の手によって痛めつけられているのを見ているのは少し辛いものがあった。
助けてあげたいが何も出来ない自分、彼らを咎めることによって折角出来た友人を失うかもしれないという不安。
シリウスやジェームズやピーターは初めて出来た友人なのだ。
今まで僕には人狼という枷があり友人と呼べる存在など居なかった。ダンブルドアはそれを取り除いてくれた。
一人になるのが怖い。
一度光を知ってしまった僕は暗闇に戻ることなど考えられなかった。昔は耐える事ができたが今はもう無理だ。
満月を見ながら弧独を噛み締め、肉を裂く。戻る場所があるからこそ、僕は耐える事ができている。
「行き過ぎないように見張っておくよ」
シリウスとジェームズが度を越さないように見張っている事なら自分にもできる。
たとえ口には出さなくても、それを少しでも牽制できるのなら。
はその言葉に嬉しそうに笑ってありがとう、といった。僕はスリザリン生から感謝の言葉をかけられたのが初めてで不思議な感じがした。
「リーマスはセブルスの事嫌いじゃないの?」
「嫌いじゃないよ、好きでもないけどね」
僕の正直な答えが気に入ったようでは足をバタバタと動かしたまま「好きでも嫌いでもない」という言葉を繰り返した。
スネイプを判断するための情報、接触、会話、その他諸々が僕とスネイプの間では足りない。
これからそれが良い方向へ向かうか悪い方向へ向かうかはまだ未定で不確かなものだ。
ジェームズたちが嫌っているからと言う理由でスネイプを嫌えるほど、僕は人を簡単に切り捨てたりはできない。
何故なら、この学校に来るまで僕の世界は限られていたからだ。
自分と両親、広いとはいえないが程よい家とその庭が僕の遊び場で頑丈な作りの小屋が満月の夜の場所だった。
僕とシリウス、はある意味似ているのかもしれない。
彼らの世界もホグワーツに来るまで純血思想に縛られていたのだ。僕とシリウスはそこから逃げ出す事ができた。
問題はまだ沢山あるけれども、それでも今を楽しく生きることができている。
はどうだろう、目の前の彼女は未だにブラック家に繋がれている。
そこから彼女は逃げ出そうとは思わないのだろうか、と考えてその答えを探した。
きっと彼女は逃げ出す事ができないのだ。
決定的に彼女にかけているのは自発的な行動である、彼女はその場に流されやすい。争いを避けようとする、人に嫌われたくないという感情が強すぎる。
けれど、僕は彼女を自由にしてあげる事などできない。シリウスの気持ちが少し理解できたような気がした。
自分だけが自由になってしまったような後ろめたさが背中から僕を包み込む。
シリウスはずっと、こんな気持ちを背負っているのだろうか。