Dilemma
今年もあの集まりは続いていた。
去年までは新入りだからある意味免除されていた研究発表も今年はやらなくてはいけない。
期待に沿える様な事ができる自信もなく、そのような闇の魔術を自分が行うという怖ろしさが一緒になって日々私を責めた。
セブルスと一緒にとりあえず何を発表するか決める事にした。
彼はあっさりと「呪いなどが手軽でいいだろう」と言い放った、その呆気無さに私は気が抜けた。
セブルスにとっては呪いなどお手軽なものなのだろう、私にとってはそれさえも怖ろしく感じた。
呪文がびっしりと書かれた羊皮紙をセブルスは見せてくれた。
そこには私が知っているような標準的なものから、初めて見るような不思議でそして何か危ない感じのする呪文が書き込まれていた。
その一つを彼に尋ねてみると、「これは自分で作った」という返事が返ってきて驚愕した。
スリザリン以外の寮でまことしやかに囁かれている「スネイプはこの学校の誰よりも多く呪いを知っている」疑惑は本当かもしれない。
友人の異常なまでの闇の魔術に対する熱意を垣間見た瞬間だった。

「『レビコーパス』だ、杖の振り方をよく見ていろ」
「ちょっと、もう一回やってよ」
セブルスの自作の呪文「レビコーパス」は物を浮かせる呪文であるらしい。彼は今度の集まりまでに私にその呪文を習得させようとしている。
私があまりにやる気が無かったのでセブルスは途方にくれ、自分が仕切らなければいけないという使命感が沸いてきたようだった。
レビコーパスはセブルスには失礼な話かもしれないがそんなに派手な呪文ではない。
ただ物を浮かせるだけだ、その証拠に今私が振った杖の先でクッションが宙に浮いている。クッションはこちらに攻撃を仕掛けてくるわけでもなく、柔らかいままである。
しかし、セブルスは満足そうにその光景を眺め「合格だ」と言い渡した。状況があまりつかめない。
そしてセブルスは自分の部屋に行ってしまった、今日の夜の集まりのために自分の練習があるらしい。
付き合おうかと提案したが断られた、人が居ると気が散るそうだ。それに後で分かるとはぐらかされた。
暇で暇で仕方ない私だったが談話室に居るルシウスの姿を見つけたので傍に駆け寄った。
「ルシウス」
「ああ、か。」
ルシウスは何か読書をしていた、その様子が優雅で私は溜息を吐いた。
羨ましすぎる、自然な立ち振る舞いがルシウスは非常に上品である。少しの練習では全然届かないほど。
読書をする様子でさえ絵になってしまう、さすがマルフォイ家の長男である。
ぱたんと彼は本を閉じて、私の指先を見つめた。その視線に気付いて私は左手をさっと隠した。
「傷があるな」
「…、魔法薬学のときに切ったのよ」
授業でイラクサを使用する際に棘で指を傷つけてしまった。そんなに深い傷でもなかったので放っておいたのだった。
セブルスに報告すると、きっと間抜けだとか色々と説教されてしまいそうなので私は特に何も言わなかった。
薬指の先の傷口は血が固まりふさがっていたので治療の必要も無かった。
ルシウスは私の左手をそっと自分の右手で取った。
「もっと気をつけろ、大怪我じゃなくて良かったが」
そしてルシウスは私の左手薬指に軽く唇を寄せた。かっと、顔が赤くなるのを私は感じた。
赤くなった顔を隠そうと思って下を向いた、きっとルシウスはその様子を面白く思っているのだろう。
頭の中にルシウスの意地悪い微笑が浮かび少し悔しかった。
夜が闇を連れてホグワーツに押し寄せてきた。
「純血よ永遠にあれ」
私とセブルスは扉を潜った。そこには、もう皆集まっていた。
「さあ、今日は何を見せてくれるのかしら」
ベラトリックスが楽しそうに声を上げた、周りもざわめく。
心臓が音を立て、気が急く。セブルスに視線を移すと彼は私の隣で落ち着いていた。
セブルスがパチンと指を鳴らすと目の前に一人の屋敷しもべ妖精が現れた。
私は何が何だか分からないままその屋敷しもべ妖精を見つめていた。
「、あの呪文だ」
セブルスは私にしか聞こえない程度の声で囁いた。
あの呪文、「レビコーパス」の事だと私は直ぐに分かった。そして同時にそれをあの屋敷しもべ妖精にかけろと言っている事も。
屋敷しもべ妖精も自分がどんな状況に置かれているのかわからずきょろきょろと周りを見渡していた。
「レビコーパス」
震えで声は消え入るようだったが、私の杖は無意識に動いていた。
するとバンという音がして屋敷しもべ妖精が宙に浮き逆さ吊りになった。
私はその様子に目を見開いた、今までクッションで試していたからあんなふうになるなんて思っていなかった。
周りの生徒は皆その様子を指を刺し笑った。ルシウスもにやりと笑っていた。
かわいそうに思えた同情と、自分がひどいことをしてしまったという後悔が私の胸に押し寄せる。
涙がじわりと出そうになるのを必死にこらえた。泣いても仕方が無い。しかしこの光景はとても奇妙で怖ろしかった。
直してあげようと思い杖を上げたが、途中で私は自分が解除呪文を知らない事に気付いた。
セブルスは何もいわずにさっと前に一歩でた、屋敷しもべ妖精に向かい合う形になる。
そして杖をそれに向けた、屋敷しもべ妖精は懇願するようにキーキー鳴いた。
私は見ていられなくなり、セブルスのローブを引っ張った。
「お願い、止めて」
セブルスがこれから何をするのか私は何となく想像がついていた。決して解除呪文はかけないだろう。
私に見せないように練習していた呪文の怖ろしさを私は想像した。
セブルスは杖を振り上げた、私の心は駄目だと悲鳴を上げる。
「セクタムセンプラ」
低い声が聞こえた、ぞっとするような響きの呪文が友人の口から飛び出した瞬間私は目をつぶっていた。
スパンっという何かが切れる音が多数聞こえた、息をのむ生徒達の声、ヒッっという悲鳴。
私は恐る恐る目を開いた、どれほど酷い惨劇が広がっているのだろうか。
まず見えたのは宙吊りになったままの屋敷しもべ妖精。
そしてその隣でずたずたにナイフで裂かれたような傷を持つクッションが床に落ちていた。
私はほっと胸をなでおろした、セブルスは屋敷しもべ妖精を傷つけなかった。
セブルスが杖を振ると浮かんでいたしもべ妖精は床に落ち、それにルシウスが近寄った。
私は一瞬ルシウスがなにかするのではないかと思った。
しかし、ルシウスは屋敷しもべ妖精に忘却術をかけただけだった。
「ダンブルドアに報告されると困るからな」
虚ろな目でしもべ妖精は立ち上がり消えた。きっと仕事に戻ったのだろう。
今晩はこれでお開きだ、とロドルファスが言い集まりは終わった。
私は何も言わないままのセブルスの背中を見つめながら女子寮へと向かった。