Dilemma


悪夢のような夜が終わり朝日を浴びると心が落ち着くのを感じた。
夜が終わらないような気がしていたのだ、本格的に自分が闇の世界に入ってしまうのではないかと不安だった。
昨日の呪文を使った瞬間から、もう私は今までの私でないような感覚を持った。
もう戻れないのかもしれない。

シリウスと会うのが怖かった、すべて見透かされているような視線を受けるのが怖くて、出来るだけ会わないように心がけた。
いつものように目が合うとぎこちなく笑うことしかできず、こんなことではシリウスが不思議に思ってしまうだろうと鏡の前で作り笑いの練習をした。
私は今までどんな風に笑っていたのか分からなくなった。

セブルスは相変わらずで何も変わった様子も無かった。
もしあの時私が止めなかったらセブルスは迷わずあの屋敷しもべ妖精に魔法をかけていたのだろう。
怯えるしもべ妖精にまっすぐ杖を構えたセブルスを思い出し、ぞっとした。
いつも傍でいてくれるセブルスと昨日の彼は別人のように感じた、あれが本当のセブルスなのだろうか。
何となくセブルスが闇の魔術に傾倒していることは知っていたのだが、それを認めてしまうのが嫌だった。
友人を美化しすぎていたのかもしれない自分に腹が立った。









私はセブルスに何も昨日の事についていえないままだった。
責める事もできず、かといって彼の行為を認めるわけにもいかずに私は両者の間をさまよっていたのだ。
屋敷しもべ妖精にあんな事をするなんて酷い、と彼を否定する事は私には出来ないのだ。
なぜなら、私はあの妖精に魔法を掛けてしまったではないか。「レビコーパス」を掛けられた屋敷しもべ妖精の恐怖は確かに私に向けられていた。

「ああ、スニベルスじゃないか。」

一人悶々と思考を巡らせながら空き教室の窓の外を眺めていた私は、中庭にポッターとセブルス、そしてピーターが居るのを見た。
どう見ても仲良く会話を交わしているようにも見えず、私は三人に目を凝らした。
先ほど『スニベルス』という言葉が聞こえた、きっと彼らはセブルスをそう呼んでいるのだろう。
セブルスが悪態を吐く様に何かいっているのが唇の動きで分かったが、内容までは分からなかった。
しかしそれがポッターの癇に障ったのはポッターの顔色の変化で分かった、彼は今にもセブルスに掴みかかりそうだったが杖を向けるにとどめていた。

「スニベルス、口は災いの元だ。」

ポッターの良く通る声と共にバンという音がこちらの教室まで聞こえた。
煙がセブルスを覆い、それが風と共に去った後に残されたセブルスは首から下がすべて地中に埋まってしまっていた。
地面にセブルスの生首が生えているような様子である、はっきり言って泣く子も黙るほど気持ち悪い。
そんな彼をフンッと鼻で嘲った後にポッターはからかうような口調でこう付け加えた。

「ブラックにでも助けてもらうんだな、いつもお前は彼女に忠実にお供しているからきっと快く助けてくれるさ。
 スニベルスも素晴らしいブラック家の恩恵を授かろうとする汚い取り巻きの一人だろう。」

お前はきっと彼女のお気に入りだから、とポッターは更に言った。
セブルスの瞳に静かな怒りが燃えているのを私は感じた、そしてそれ以上に私自身がポッターに対して怒りを覚えていた。
私は彼のことを取り巻きだなんて思ったことはない、セブルスは私の大切な友人である。
確かに少し方向性の違いだってあるのだが、彼の存在なくしてこのホグワーツで生活する事は何の意味も持たない。
それにセブルスは一度も私に媚びた事などない、擦り寄ってくるブラック家の栄光に縋ろうとする子達とは全然違う。
そんなこと私がわかっている、それをポッターにとやかく言われる筋合いは無かった。

セブルスを侮辱したポッターに対して、私は今までかんじたことの無い嫌悪感を感じた。
勇猛果敢なグリフィンドール生がこんな事をいうなんて、私はグリフィンドールに対して失望した。
更にそんな人間とシリウスがとても仲良く付き合っているという事実に気付いて、悲しくなった。
日々こんな風にセブルスをシリウスもポッターと一緒になって、苛めているのだろうか。
私は無意識のうちに階段を駆け下りて中庭へ向かっていた。
許せなかった、ポッターの悪戯は度を越しすぎている。セブルスの人格を誰も否定する権利など持っていないのだ。

「ポッター、何をやってるのかしら」

私はポッターの首に後ろから杖を当てた。ピーターがはっとした表情でこちらを振り返る。
ポッターは降参だというように両手を軽く挙げてゆっくりとこちらを見た。私は杖を構えたままだ。

「セブルスを元に戻して、謝りなさい。」

セブルスはこちらを見ていた。私はセブルスから視線を逸らした。
彼は私に、助けろだなんて言っていない、と呟いた。これではポッターの思う壺だと言いたげだった。
そうなのかもしれない、私がここでセブルスを助けてしまうとポッターの勝手な考えに証拠をささげてしまうような物である。
しかし黙ってあのまま見ている事はできなかったのだ。友人を放っておくわけには行かなかった。

「そんなにスニベルスが大事かい?君に忠実な犬だから?」

ポッターはせせら笑う様な声で私を馬鹿にした。
ジェームズ、とピーターは彼を注意するように声を上げたがポッターはそれを無視した。ピーターはそれから何も言わなくなった。

「私の大事な友人に変なことをしないで。」

「すまない、君の大切な御学友があんまりにも石頭でね。少しかっとしたんだ。」

きっとまたセブルスの純血思想に類する発言がポッターを怒らせたのだろう。
でも、その報復としての行為はセブルスの言葉の酷さを超える物である事は明らかだった。
私はポッターを睨みつけたまま杖を逸らした、そして早く魔法を解きなさい、と命令した。
ポッターはしぶしぶといった様子で二言ほど呪文を唱え、杖をセブルスに向けて振った。するとセブルスの体は地面から少しずつ出てきた。

「何をしているんだい?」

「「リーマス」」

現れたのはリーマスで私とポッターの声が被った。不愉快そうに眉を顰めたポッターの顔がとても痛快だった。
彼はきっと私とリーマスが知り合いだなんて思っても見なかったのだろう、ショックを与えられた事が嬉しかった。
シリウスが探していたよ、とリーマスはポッターに言った。するとポッターは直ぐにどこかに走り去ってしまった。
残された私はきっとリーマスが気を利かせてポッターを追い払ってくれたのだと感じた。
しかしセブルスにとってびくびくしているピーターもリーマスも敵にしか見えないようで、私の腕を引っ張りずんずんポッターの向かった逆の方向へと歩み始めた。
私はリーマスにお礼も言えずに、その場を去ることになってしまった。