Dilemma



セブルスの予言通りルシウスやベラトリックス達は入れ替わり立ち代り私のお見舞いに来た。
ルシウスはもう少し安静にしていなければならない私が暇を弄ばない様に本を持ってきてくれた。
ナルシッサとアンドロメダはホグズミードで買ってきてくれたキャンディーなどを私にくれた。
ベラトリックスはクィディッチの試合のときの私の飛行を褒めてくれて、「あの腕ならチームにも入れるわ」と言ったが私は青い顔をして断った。
ブラッジャーに追いかけられるなんていう恐怖体験はもう二度としたくなかったからだ。

シリウスは手ぶらでやってきて、「元気そうだな」と笑った。
もう少し心配してくれたっていいのに、と私は最初は思ったのだが様子を見ていると結構心配してくれていたようで嬉しかった。
ポッターの目を盗んで来てくれたらしく、少し優越感に浸れるのも事実だった。
シリウスに昨日の話を伝えるべきかどうか悩んだが私は伝えなかった。まだ、私の中でも話を整理しきれていないからである。

リリーは試合のことを思い出したらしく少し涙ぐみながら「死んじゃったのかと思ったのよ」と私を抱きしめた。
体が悲鳴を上げたが、何も言わずにリリーを抱きしめ返した。友人の存在を本当に素晴らしく思った。
彼女は持ってきてくれた花を花瓶に生けた。中庭に咲いていたらしく摘んできてくれたのだった。とても綺麗で心が晴れた。

そしてセブルスがやってきた時持ってきたのは魔法史の課題とノートだった。









「ありがとう、セブルス。でも、遠慮するよ。」

私はセブルスの腕にノートをレポート用紙を返却した、が再びつき返された。
彼曰く、休んでいる間にも授業は進んでいるんだ、遅れをとったら試験で痛い目に遭うぞ。
渋々私はそれらを受け取った、セブルスは用意の良い事にそれに関する資料まで持ってきてくれていた。
病人に勉強させる気か問いただすと、手と脳ぐらいは動かせるだろうと鼻で笑われた。

セブルスも帰った後、私はレポートに手はつけずルシウスが持ってきてくれた本を読む事にした。
しかし読書はすぐにマダムポンフリーの声によって中断された。

「お友達が来ていますよ」

誰だろうと思い本から目を離すと、そこにいたのはリーマスだった。
どうしてここにいるのだろうか、もしかして悩みすぎた末の錯覚かもしれないと思った。
しかしリーマスは「大丈夫?今日シリウスから入院してるって聞いたんだ。」と言葉を発した。錯覚ではない。

「あ、うん。大丈夫だよ。」

昨日のことを思い出して少しギクシャクする自分を叱咤しいつものように振舞う。
リーマスは本当に心配そうな表情でチョコレートをくれた。
手に巻かれた包帯が痛々しく見え、昨日の事を改めて認識させられた。

「昨日の試合に出てたんだって?僕も見たかったな」

昨日は調子が悪くて寮の自室に篭っていたとリーマスは付け加えたがそれが嘘である事を私は知っていた。
彼は調子が悪かったのではない、昨日が満月だったからだ。
もしかしてリーマスは私が昨日の夜の会話を聞いていたのかもしれないと思い、探りを入れているのかもしれないと思った。

「少し顔色が悪いよ、寝てた方がいい」

リーマスは私の額に手を伸ばした、それが熱を測るためで他に体がないと言う事もわかっていたはずなのに私は彼の手が近づいた瞬間、身を引いた。
あまりに自然な動き、考えるよりも先に体が動いていた、私はリーマスを拒絶したのだ。
こんな風に動くつもりもなかった。リーマスは本当に私を心配してくれていたのに、私はその気持ちを踏みにじったのだ。
けれど私に植えつけられていた恐怖と先入観はまだ知り合って間もないリーマスとの関係を安々と超えてしまった。
はっとしたのは私だけではなくリーマスも同じで、驚いたような表情で、しかしすべてを悟ったように笑った。

は気付いていたんだね」

悲しそうな目を直視する事ができず私は俯いてリーマスの言葉を聴いていた。
こんな悲しい真実に気付きたくなかった、気付くとしても、もっと親しくなった後だったら状況は変わっていたのかもしれない。

「安心して、もう近づかないから」

リーマスはそんな言葉を残して私の前から去っていった。
引きとめようと思ったが良い言葉が思い浮かばなかったのでもごもごと口が中途半端に動くだけだった。
拒絶した言い訳も不幸に対する慰めも私は持ち合わせていなかった。
たとえ持っていたとしてもリーマスを癒す事など私にできないと言う事も同時に分かっていた。

傷つけてしまった、という罪悪感が自分を襲うがどうしようもないジレンマに苛まれて身動きが取れない。
今までリーマスはどれほど人に拒絶され非難され迫害され生きてきたのだろうか。
境遇のまったく異なる彼の人生を想像するのは難しいが、また辛かった。

私はなんてひどいことをしてしまったのだろうか。
あの夜、あんなふうに傷ついたリーマスを見て私が感じたのは恐怖ではなく同情だった。
私はまだリーマスと比べると恵まれている、と感じたのも事実だ。
しかしながらリーマスは真実を隠しているけれども懸命に自分の生きたいように頑張っている。
人狼が学校に行くなどと言う無理難題もクリアしてきた、それにはどれほどの努力が積み重なった結果なのだろう。
私はそんなリーマスの半分も努力していない、あの家に振り回されたままこの学校で生きている。
だから同情などと言う感情は失礼であり、本来なら尊敬し敬愛するべき相手であるというのに。

シリウスはきっとこの事を知らないのだろう。
リーマスは殊更に彼らの前では気を使い生活しているに違いなく、だからこそ、この医務室で不安や自分の運命に対する悲しみをこぼしているのだ。
シリウスやポッターたちがこの事を知ったら彼らはどんな反応を取るか私は知りたかった。
自分のやったことを正当化したい訳ではない、彼らの間の友情と言うものがどれほどの絆で結ばれているのか知りたかったのだ。

衝動的な恐怖が私から離れてくれない。
グレイバックの下品な笑み、言葉の節々、掴まれた腕の感触が忘れられず私の中に残っている。
リーマスが手を近づけてきた時、それがあの男のものと重なって見えたのだ。
彼をリーマスが別の人間であり、異なった人格の持ち主である事はわかっていても人狼という共通項がわたしを突き動かす。