Dilemma
あれからリーマスと話す機会は無かった。
時々顔は見るがあちらから話しかけてくる事も目が合うという事も無い。
当たり前だ、私は彼を拒否し傷つけてしまった。そんなリーマスが私に微笑みかけてくれるなんて期待していない。
しかし、どこか寂しいのも事実だった。
あまり親しいわけではなかったが分け隔てなく接するリーマスに私は比較的好感を持っていた。
また、同時に私が見かけるリーマスは一人でいることが多くなったような気もした。
今までは隣にシリウスやポッターが居たはずなのに、ぽつんと一人で廊下にいたりする。
まるでリーマスがポッターたちを避けているようだと私には感じられたが、誰にもいう事ができない。
もしもそれが私の所為だったらと考えると、後悔の波が私を何度も打ちつけ、泣いてしまいたい衝動に襲われる。
そのままクリスマス休暇に縺れ込み、あまり浮かれるような気分にはならなかった。
色とりどりの飾りつけを見ても、沈んでしまった気持ちはぬぐう事はできない。
シリウスはリーマスの行動の真意に気付いているのだろうか。それともリーマスが彼らを避けているというのは私の勘違い?
どちらにしろ、一人では考えが前に進まないので近いうちにシリウスに相談しようと決心した。

今年の休暇はシリウスも帰ってきたので非常に落ち着いた休暇だった。
母親も父親も上機嫌で、パーティーも例年の如くに開かれた。
パーティーではシリウスに好奇の目が少し注がれているのが私にはわかった。
グリフィンドールに入ったブラック家次期当主という肩書き、そして去年のパーティーの欠席が招待客の注目を集めていた。
ナルシッサがルシウスと踊っているのを見た。とても嬉しそうなナルシッサの笑顔が印象的だった。
アンドロメダは招待客の男と話してはいたが、心此処に在らずといった様子で窓の外を見ていた。
その横顔が愁いを帯びていて大人びて見えた。アンドロメダは何を思っているのだろう。
しかしぼーっとしているのはアンドロメダだけでなく、シリウスも同じだった。
招待客に対する挨拶周りの時もどこか上の空で見ているこちらがはらはらした。
私はリーマスのことをシリウスに言おうか言うべきではないのか悩んでいた。
パーティが終わり部屋に戻った私はベッドに倒れこんだ。
ドアをノックする音がする、反射的に振り向くと私の返事も待たずシリウスがドアを開けた。
私が不満げにベッドの上でシリウスを軽くにらみつけると彼は悪びれる様子もなく、ソファーに座った。
「愛想笑いで顔が筋肉痛になりそうだ」
「お疲れ様、次期当主。」
私が冗談めかして言うと彼は心底嫌そうな顔をしたので、私は口を噤んだ。
グリフィンドールに入ってから、シリウスは自分がブラック家を継ぐことに疑問を覚えているようだった。
昔は仕方なくではあるが、それが自分の運命であるかのように受け入れていたが今は違う。彼はここから抜け出す方法はないか日々模索している。
「何だか今日は上の空だね」
窓の外を眺めて黄昏ているシリウスを見て私は問うた。
シリウスは自分の行動が無意識であったと云わんばかりに驚き慌てている様子で「そんなに変かな俺」と呟いた。
うん、ちょっと。と答えるとシリウスは溜息をついた。
「何か最近リーマスの様子がおかしい気がして」
俺ら何か嫌われるような事でもしたのかなぁ、と辛そうな声を挙げるのを聞いて私は胸が締め付けられるような感覚に襲われた。
私の勘違いではなく、リーマスの行動は確かにシリウスたちにも不安を与えていた。
その原因はきっと私であるということを云うべきなのか言わないべきなのか。双子の兄に嫌われてしまうかもしれない。
そして同時に私はシリウスがリーマスの真実を知っても、彼の最も近い友人の一人でいられるのかが不安だった。
私は彼を咄嗟に拒否してしまった。果たしてシリウスは『人狼』というキーワードにどのような反応を示すのだろう。
「はアイツから何か聞いてないか?」
私の顔色がさっと青くなるのをシリウスは見逃さなかった。
これ以上隠し通す事は無理だという事を私は悟った、そして覚悟を決めた。
息を深く吸い込み深呼吸をして気持ちを落ち着かせる、言葉がはっきり出てこないのでしばらく間が空いた。
「入院していた時、夜明けと共にリーマスが医務室にやって来たの。あの日は満月の夜だったわ。」
ここまで言えばたとえ『人狼』という言葉を使わなくても勘の良いシリウスには理解できたのだろう。
彼は驚いた表情は見せなかったが、難しい顔をして黙り込んでいた。私は単にすぐには、友人が人狼である、という事実を受け入れられないのだろうとおもった。
そして私が彼の手から身を引いた事を話した、リーマスを傷つけてしまった事も、彼の悲しそうな言葉も、すべて話した。
シリウスは頷いて右手を硬く結び握り締めていた、そして言葉を発した。
「俺たち知ってたんだ、リーマスが『人狼』だってこと。」
「知ってたの…?」
私は驚愕した、まさか彼らは知らないと思っていたからだ。
シリウスやポッターはリーマスが人狼であると言うことを分かった上で仲良くしてたということになる。
「けど、知らない振りをしていたんだ。アイツはきっと俺たちがその事を知った事に気付いたら学校を辞めてしまうだろうから」
リーマスは母親が具合が悪く、そのためにお見舞いに行くという名目で夜な夜な寮を出ていたらしい。
それが満月の夜だということに気付くまでにそんなに時間はかからなかったそうだ。
シリウスたちは毎月、どんなに心が引き裂かれるような痛みに耐えながら傷つきに出向くリーマスを笑顔で送り出していたのか想像すると辛い。
「友達なんだ、リーマスは。ホグワーツで出来た大切な友達なんだ。」
罪悪感に押しつぶされそうだった。シリウスは私を責める事をしない、私が人狼に過剰反応してしまいがちな理由も知っているから。
私は両手で顔を覆うシリウスになんと声を掛けてよいのか分からなかった。
シリウスの大切な友人が私の所為で傷つき、ホグワーツを去るなんて考えるだけでも嫌だった。
私はリーマスが怖いのではない、人狼という存在が怖ろしいのだ。
なのにリーマスにその恐怖をすべて押し付けて処理しようとした、責められてもいいはずなのに。
奇妙な沈黙はドアをバンと開く音で遮られた。
視線の先に立っていたのは息を切らしたレギュラスだった。私たちは彼の言葉に耳を疑った。
「兄さん、姉さん。アルファード叔父さんが帰ってきた。」