Dilemma


久しぶりに見たアルフォード叔父さんは客室のベッドで眠りについていた。
レギュラスによると、庭のほうで物を音がしたので出てみるとそこに叔父さんが倒れていたらしい。
医者が駆けつけて診察した結果、極度の疲労でしばらくの休眠を必要としているといわれた。
次の日目を覚ました叔父の部屋に私達は入れてもらえず、神妙な顔をした父親と母親だけが部屋に入っていった。
その所為で休暇の間に叔父に会うことはできず、私たちはホグワーツへ向かう事となった。

汽車の中でアンドロメダに叔父さんが今まで何処にいたのか知ってるかと尋ねたが知らないといわれた。
彼女は何か別のことを考えているようだった、最近はずっとこの調子だ。
おそらくベラトリックスは事の真相を知っているのだろうが、彼女に聞く度胸はなかった。
何だか怖ろしい事が関わっていそうな気がした。
そのままアルフォード叔父さんの話は終わり、雨が窓を打つ音が二人きりのコンパートメントに響いた。
もともとアンドロメダは浮遊感のある人だと思っていたがそれに拍車がかかってきている気がする。
どうしたのか尋ねるべきか悩んだ、そんな時彼女は話を切り出した。









は運命論を信じてる?」

私はアンドロメダの言葉がよく分からず首をかしげた。すると彼女は分かりやすく言い直した。

「運命論とは運命によってすべては定められていて人間が幾ら足掻いたってそれには逆らえないってことなの。」

それはまるで、ブラック家に捕らわれている私たち自身のことを指しているように聞こえた。
私達は純血思想をあの家によって植えつけられ行動もブラック家に相応しいものをと躾けられてきた。
どれだけ抗おうとしてもあの家から開放されることはないのかもしれない。
しかし、私はそのような行動を起こしてはいない、憎みながらもブラック家を捨てきれない自分がいるからだ。

「私達は運命に逆らえるのかしら…」

アンドロメダの長い睫が下を向いた。私はいたたまれないような気持ちになった。
私は運命に逆らう事はきっと出来ない。
しかし、シリウスはどうだろう?彼はブラック家の例外だ。
グリフィンドールに選ばれて以来、彼は見違えるように生き生きとし始めた。まるで、別世界の住人のように。
彼ならきっと運命を自分で切り開く事ができる。
おそらく、この世にはそれをする勇気を持つ者とそれを持たない者で構成されているに違いない。

「きっと、アンは逆らえるよ。」

私は言ってからあたりを見回した、こんな会話をベラトリックスやナルシッサに聞かれたら怖ろしい。
アンドロメダは勇気を持つものであると私は直感的に感じていた。私はそれを持っていないから直分かる。
光り輝くような美しい心が彼女を導いてくれるだろう。

「ありがとう、。」

彼女の目が潤んでいるのに気付いた、綺麗だと感じた。アンドロメダの泣き顔はいまだ見た事がなかった。
ナルシッサはよく感情的になる性分だったの泣く事も多かったが、アンドロメダははいつも顔に微笑を湛えていた。
そんな彼女がそれほどまでに苦しんでいる。しかもブラック家のせいで。
彼女を勇気付けるためのありふれた言葉しか持たない私は無力感に打ちひしがれていた。
アンドロメダの背中に手を回し私は彼女を抱きしめた、それに答えるように彼女の手が私の背中に廻った。
何を悩み、苦しんでいるのかは分からないが彼女の未来に幸があるようにと願った。


セブルスはホグワーツで休暇を過ごしていた。
到着すると直ぐにクリスマス休暇はどうだったか尋ねられ、私は「例年通りだよ」と答えた。
アンドロメダの事が気がかりでアルファード叔父さんのことを話すような明るい気分ではなかった。
彼女はまた何時もの微笑を浮かべて談話室の人の輪の中にいた。
ふと、セブルスの家族の事に興味を持った。彼から家族の話は聞いた事がない。

「セブルスの家族ってどんな人?」

何の悪気もない質問だったのだ。しかし、彼は顔色を一気に青くし口をもごもごさせた。
彼らしくない反応に私は不信感を募らせた。

「兄弟とかいるの?」

彼は俯いて「いない」と小さな声で呟いた。一人っ子らしい。
次に両親について聞くと、彼は体をビクつかせた。まるでそれが禁忌であるかのように。

「聞かないでくれ」

苦虫を噛み潰したような顔で訴えるセブルスにこれ以上この話を持ちかける事はできなかった。
てっきりセブルスの純血思想具合から私はうちと同じような環境を想像していたのだ。
そしてセブルスはそれを誇りに思っているに違いないと、勝手に早合点してしまっていた。間違いだった。
きっと、なにか深い事情があるに違いない、しかも触れてはいけない何かが。

ここの所、悩み事ばかりで眠れない。
アンドロメダの悩みやセブルスの秘密。そしてリーマスの事。
私はリーマスに謝罪するべきなのだ、彼に許してもらえるとは思えないがこの気持ちだけは伝えなければいけない。
リーマスは私の古い記憶の人狼とは別の人間なのだから、勝手に重ね合わせていた私は愚かだった。

もう彼とおしゃべりする事もなくなってしまうのだ、と考えると寂しかった。
けれど、自分の取った行動には責任を持たなければいけない。
運命にいくら流されたって、これだけは譲れなかった。

眠れないので夜風に当たろうと寮を抜け出した、フィルチに見つからない自信はあった。
例の集まりの際に色々な抜け道などを教えてもらっていたからである。
塔から誰もいない雪の積もった静かな中庭を見下ろした、風が冷たいのでぶるりと身震いした。
そういえば今は真冬なのだ、悩み過ぎてそんな事も忘れていた。

目に写ったものが一瞬、幻かと思った。誰もいないはずの中庭に二人の人間がいたからだ。
よく目を凝らすと、その一人がアンドロメダでもう一人はグリフィンドールカラーのマフラーをした男だということに気がついた。
彼女達は仲睦まじく寄り添っていた、きっと恋人同士なのだろう。
はっとした、アンドロメダが悩んでいた理由はきっとこれだ。
グリフィンドール生とスリザリン生の報われない恋。運命を切り開くことを否定してしまえばこの恋は終わりだ。

見なかった事にして足早に私は寮へと戻った。また一つ気になる事柄が増えて私の睡眠を妨げた。