Dilemma
「おはよう、リーマス。」
「おはよう、。」
グリフィンドールテーブル前での朝の挨拶にリーマスが再び加わった。
あれからシリウスやリーマスたちの間でどのような会話が行われ、どのようにして問題が解決されたかは私には分からない。
けれどその場の雰囲気から、すべては丸く収まったのだと感じ取る事ができたが、相変わらず私が通ると嫌な顔をするポッターを見ると良い気分ではなかった。
リーマスの笑顔があの場所に戻った事を心から嬉しく私は感じていたので、そんなポッターのことは忘れる事にした。
今日の魔法薬学では、リリーとペアを組む事になった。
セブルスはスラグホーンによってスリザリンの中でも特に魔法薬学が苦手なアレックス・フリントとペアを組まされていた。
スラグホーンはセブルスの魔法薬学の腕を褒め称え、それを見習うように言った。またスラグホーンはリリーのこともお気に入りだった。
彼女は真面目に予習復習を繰り返しているので、授業での実験の動作も無駄がなくセブルスには負けるもののグリフィンドールのなかではトップクラスだった。
私はスリザリンの生徒とペアを組んでも良かったのだが、女子達は遠巻きに私を見つめるだけだった。
今まで邪険にしてきた所為もあるのだろう。もう少しフレンドリーに接しておかなければならないな、と肝に銘じた。

「ねえ、。夏休みどこか遊びに行かない?」
リリーは鍋の中身が乳濁色から透明になったことを確認しながら提案をした。
そういえばもう直ぐ夏季休暇を私達は控えていて、更に言うと学年末試験ももうすぐやってくる予定である。
血眼になって勉強するものもいるが、私はそれほど試験に執着はない。基本的に予習復習さえしておけば大丈夫であろうと楽観的に考えている。
ただし例外もある、私の場合で言うと魔法史の試験は一つの山場だ。
しかしながら私には魔法史の得意なリリー・エヴァンズという頼もしい友人がついているので、大分去年よりは余裕が生まれている。
そして魔法薬学は日々セブルスの趣味につき合わされながらも彼の素晴らしい調合法を見る事ができているので、他の生徒よりは優れている自信はあった。
「うん、行こう。」
あのブラック家に戻るという暗い休暇にそれぐらいの楽しみがあったって許されるだろう、と私は思う。
そして思い出すのはもうすぐホグワーツに入学するレギュラスの事だった。いままであの家にレギュラスを残していたことが辛かった。
シリウスからレギュラスへと母親の異常な執着は移り変わっていたことを私は薄々感じていたのでレギュラスの様子が気になっていた。
「何処に行こうかしら」
楽しそうに思いを馳せるリリーを見ていると私まで嬉しくなった。
そして後ろのほうの席で調合をしているシリウスとポッターを見て、シリウスもポッターといるとこんなふうに楽しくなるのだろうと思った。
ポッターを好ましい人物だとは思わないが、シリウスにとっては良い影響を与える存在であることは認めざるを得ない。
あの家だけに縛られていた頃のシリウスと今のシリウスはもう違う。
そして遂に迎えた学年末試験の朝、食事はあまり喉を通らずひたすらジュースを流し込んだ。
隣ではセブルスは余裕の表情でクロワッサンを食べていた、その様子に私は些か嫉妬心を覚えた。試験に執着はないが、やはり緊張してしまうのが人間と言うものだ。
すると突然、頭上に見慣れない梟がテーブルに降りて私の目の前に手紙を置いてから、皿の上のベーコンを突きだした。
その梟の色は黒い、ブラック家の人間が使うのはすべて黒い梟である。
宛名が私の名前だったので恐る恐る手紙をひっくり返してみると、差出人はアルファード叔父さんだった。
手紙にはアルファード叔父さんらしい少し癖のある文字が並んでいた。
内容は、本当はクリスマスに会いたかったという謝罪と夏休みに会えるのを楽しみにしているということだった。
何故、姿を眩ませていたかについての記述はなかった。休暇中にその理由を問うてみようと決めた。
そしてシリウスにもよろしく伝えるようにと、書いてあった。私は早くシリウスにその事を知らせたかった。
私とシリウスはアルファード叔父さんが大好きだった、ブラック家らしくない叔父さんに好感を持つのは自然な事だった。
だからこそ、失踪には心を痛め、再来したときの疲労具合を不審に思っていた。
一体この数年間のあいだで彼は何をしていたのだろうか、疑問は尽きなかった。
そのことを考えているうちに試験への不安は消えていた。私は落ち着いて試験の後の休暇を目指すことができた。
魔法薬学はぺしゃんこ薬の調合で、これはスムーズに作業を終える事ができた。
変身学も思っていたよりも簡単に羽ペンを小鳥に変えることができたのでマクゴナガル先生の顔には笑顔が浮かんでいた。
その後は苦手な魔法史もどうにか切り抜けて試験終了を迎えた。そして向かったのはシリウスの元だった。
「シリウス!」
試験会場を出た廊下で私が後ろからシリウスを呼び止めるとポッターが非常に怪訝な表情を浮かべて振り向いたが私は気にしない。
シリウスに一刻も早く叔父さんのことを伝えたかったのでポッターなどを気にしている場合ではなかった。
「アルファード叔父さんから手紙が来たの、休暇中に会おうって。」
するとたちまちシリウスの顔は試験の疲れをどこかへ吹き飛ばしてしまったかのような清々しさを浮かべた。
それを見て更にポッターが不機嫌になったような気がしたが私はもうポッターを無視する事にした。
ポッターがブラック家の話題に口を挟むようなまねはしないだろうと思ったからである。
「何か他に書いてあったか?」
「ううん、二年間のことについては何にも。」
少しシリウスががっかりしたようにも見えたが、もうすぐ会えるということで気を取り直したらしい。
ブラック家と距離が出来てしまったシリウスが少しでも自発的にブラック家と関わってくれると思うと少し心が弾んだ。
相変わらず私の心の中にはシリウスがいつかブラック家から出て行くのではないかと言う不安と確信が渦巻いていた。
そんな中でブラック家に縛られたままの私はシリウスにおいていかれるような気がして嫌だった。
けれども今、この瞬間シリウスの心の中を占めているのはポッター達ではなくアルファード・ブラックである。
叔父を利用しているような気もしたが、それでも私はシリウスと共通項で繋がっているという喜びを感じていた。
もうすぐ夏が来る。