Dilemma
アンドロメダに夜中の密会について問う事ができないまま二年目のホグワーツでの生活は終わった。
彼女に詳しい事を聞くべきなのか悩んだが、アンドロメダは本当に必要な時に話してくれるだろう、と私は待つことにした。
根掘り葉掘り聞くということでアンドロメダを傷付けてしまうのではないかと畏れたからである。
汽車の中で運命について私に問いかけた彼女の意図がようやく最近わかった。
調べてみたところこの間アンドロメダが会っていた恋人らしき人間はベラトリックスと同じ学年でグリフィンドール生のテッド・トンクスという男だった。
彼は明るく周囲からも好かれていると聞くが、アンドロメダとの間に横たわる致命的な問題があった。
テッド・トンクスはマグル出身者であるのだ、この二人の交際をブラック家が許すはずも無い。
ベラトリックスやナルシッサ、そしてルシウスの目が鋭く光る中でアンドロメダはテッド・トンクスと秘密裏に会っている。
そのことに気付いている生徒はほとんどいないと、私は感じていた。知られるようだと、もっと大騒ぎが起こっているはずだからだ。
そして、アンドロメダはいつもうまく立ち回っているので、そんなこと気付かせない様子で暮らしている。
けれどきっと内心では報われないだろう恋に心を痛めているに違いない。
あの日、私にあんな事を聞いたのは助けて欲しかったからなのであろうか。
苦しさがあふれ出て、何処に向かえばいいのか分からないなら私がそれを受け止めようと決めた。

「おかえり、、シリウス」
慣れた手つきで自分の家の扉を開くとまず最初に出迎えてくれたのはアルファード叔父さんだった。
私とシリウスは彼に駆け寄って、順番に叔父さんに抱きついた。この前に彼を見たときは死んだように眠っていた。
顔色は前よりは大分良くなっているようではあったが、昔と比べるとやつれているようにも思える。
私はその理由を知りたかったが、ここで聞くのも急ぎすぎだろうと思って躊躇した。
「久しぶり、アルファード叔父さん。」
「シリウス、大きくなったな。も暫らく見ないうちにきれいになった。」
感慨深げに腕を組んで頷く叔父さんをみてシリウスは声を上げて笑った。
ブラック家の中でシリウスがこんな表情を見せるのは久しぶりだったので私まで嬉しくなった。
しばらくはアルファード叔父さんはこの家に泊まっていくらしく、シリウスは毎晩語り明かす気のようだった。
叔父さんはブラック家らしくない人間である、シリウスはホグワーツに入ってから叔父さんに対する親近感をより強めたようだった。
自分達の父親母親と比べると彼は随分、ブラック家であるのに普通だ。
「おかえりなさい」
レギュラスにも無事にホグワーツの入学許可書が届いて、晴れて今年から入学が決まった。
ホグワーツに入るのを夢見ていたレギュラスは必要な道具や教科書はすべて取り揃えており、予習も完璧なように見えた。
今まで二年間、兄姉や従兄弟たちが皆ホグワーツに通っているために置き去りにされたように感じていたらしい。
そんな彼も今年から同じ学校に通うようになる。それは非常に喜ばしい事なのだが、同時に複雑な気持ちも持っている。
スリザリン寮の特異性やシリウスの立場などを考えると、そのような世界にレギュラスを放り込むのは憂鬱だった。
しばらく自室で休んだ後、夕食の準備が出来たと屋敷しもべ妖精が私を呼びに来た。
この頃屋敷しもべ妖精をみると嫌な記憶がよぎってあまり良い気分ではない。私がどぎまぎしていると不思議そうに屋敷しもべ妖精は部屋を去った。
食卓に着くとにこりと笑う母親と無表情な父親、レギュラスがもう席についていた。
そして私が到着してから程なくシリウスとアルファード叔父さんも姿を現した。
学校生活についてなどのありきたりな会話が交わされる中でレギュラスだけはキラキラ光り輝いた目で学校の話を聞いていたが、シリウスは退屈そうだった。
決して楽しいなどとはこの親の前では言えないというストレスがいつも彼を襲う。けれどそんな彼の発言が両親の機嫌を良くするのだ。
そしてシリウスはじっとアルファード叔父さんを見つめた。
「叔父さんはここ数年間どこに?」
核心を突いた質問にアルファード叔父さんは一瞬困惑の表情を浮かべた。そして何か言おうとしたのを見計らって母親が会話に割って入った。
「お仕事よ、ね?」
意味深な微笑が何やら不穏な影を生み出しており、私は気持ち悪くなった。
もしかしてアルファード叔父さんは今まで危ない闇の世界に関わっていたのではないかという直感が働いた。
シリウスも同じ感覚を味わったらしくそれ以上深く追求するのは止めたらしく、そのまま平穏に夕食は終わった。
私はシリウスの部屋を訪ねることにした、それはアルフォード叔父さんの事の相談のことがメインではあったがリーマスとのことが解決したかも気がかりだったからだ。
部屋をノックすると中からがたがたと言う音がしてからドアが開いた。中を覗くと洋服や本などがバラバラと散らばっていた。
何をやっていたのかと聞くと部屋の整頓と模様替えだとシリウスは答えたが疑わしかった。
空いているソファーに腰を下ろし私はさっそく本題を切り出すことにした。
「アルファード叔父さん、普通のお仕事をしていたように思える?」
「いや、多分違うだろうな。」
私とシリウスの意見は一致していた。けれど何故姿をくらませていたかについての明確な答えは見つからなかった。
本人に聞いてみるのが一番だろうが、タイミングが重要だとシリウスは語った。
そしてそれからリーマスの事について聞いてみると、彼らは仲直りしたらしいと言うことがわかった。
リーマスが自分から人狼であることを告白し、それをポッターもピーター、もちろんシリウスも受け入れたということである。
「リーマスはお前に感謝してたよ」
カミングアウトするきっかけを私が与えたのだと、彼はシリウスに語ったらしい。ポッターが居ると機嫌が悪くなる事が間違いないのでこっそりと。
シリウスはありがとう、と私に照れくさそうに言った。
リーマスもシリウスも幸せになったのでとても満足だった、がそれはきっと私のおかげではない。
私はリーマスに罪悪感を感じていたのだ、拒絶してしまった自分が腹立たしかったからそれを払拭したかっただけなのかもしれない。
そんな私は感謝される価値もない。私は自分の中にあるリーマスへの感情を整理しきれていなかった。
途中で示した自分の浅はかな行動の所為で募る罪悪感を消し去りたいがゆえにリーマスと友人でいるのかもしれないという不安もある。
最初の頃のまま何も知らないようすでリーマスと話したりする事ができたらいいのに。
不安がいつまで経っても私に絡みつき、私の気持ちを歪め続けている。