Dilemma



今日はリリーと一緒にダイアゴン横丁へ買い物へ行く事となった。学用品はもう揃えてあるので今日は純粋なショッピングである。
シリウスにはリリーと出掛ける事を前から言ってあったが、家を出る直前に母親に呼び止められた。
何処に出掛けるのかと聞かれダイアゴン横丁だと答えると、一人で行くのは危ないからレギュラスかシリウスを連れて行きなさいと言われた。
友人と行くから大丈夫だと伝えると、不思議そうに誰と行くのかと更に問われた。今まで、私はシリウスとばかりいたから彼女は私に友人がいたことに驚いているらしい。
一瞬正直に、リリーと行く事を言ってしまいそうだったが、喉元まで出掛かった辺りで言葉を飲み込んだ。
なぜなら、リリーはマグル出身者だからだ。そんなこと私はもう気にしないのだが、母親は違う。
ブラック家の人間は異常なまでに純血至上主義に取り付かれている。
それ故にマグル出身の魔法使い、彼女達の言葉で言うと『穢れた血』と付き合うことによって自分達の純血が汚されると未だに信じているのだ。

とにかくリリーのことは言えないので私はスリザリンの友人、セブルスと出掛けるといった。
母親はスリザリンと言う言葉を聴いて満足したらしく、ノクターン横丁には入らないようにと忠告してから部屋に戻っていった。
ほっと安堵の溜息をついてから私はダイアゴン横丁へと向かう事になった。
フルーパウダーをひとつかみ暖炉の中へ投げ込み、炎の色が変化したのを見計らって中に入り込んだ。







辿りついたダイアゴン横丁の、書店の前でリリーと落ち合った。
久しぶりに会うリリーは相変わらずにこにことしていて、私の心が安らかになっていく。
本屋には様々な本があり、私達はしばらく色々な本を手に取り眺めて過ごした。するとリリーが私を呼ぶのでそこへ行ってみると、彼女は二冊の本を手に持っていた。
そこには『本に書いた文字がもう一方の対の本に浮かび上がる、ふくろう便を使う手間が省け不倫や遠距離恋愛に最適』と書かれていた。
つまりこの二冊の本は繋がっていて、一方に文字を書き込むともう一方にも同じように文字が書き込まれていくということである。
私が本の説明を読み終わるとリリーは、便利ね、と呟いた。確かに便利である。

今朝の母親の様子を思いだし、もしもふくろうが運んできた手紙を見られてリリーとの友人関係が両親に知られてしまったら困る。
無理矢理にでも友人関係を引き裂かれる事は必至だと思い、私は身震いした。
そしてリリーにもふくろう便をあまり利用できない理由があった。
彼女はマグル出身であるゆえに、家族は魔法に疎い。そしてなにより彼女の妹のペチュニア・エヴァンズは魔法使い嫌いであるらしい。
それはまるで純血思想の魔法使いがマグルを嫌っている様子に酷似していると、リリーは前に悲しそうに述べていた。
だからあまりふくろうなどが家に舞い込んでくるのを彼女の妹は好意的に思っておらず、居心地の悪い気分を味わっているそうだ。
この二冊の本はその両方の問題を解決してくれる。私達は顔を見合わせて、それを購入した。

私達は次に洋服を見て購入してから、去年リーマスとシリウスと入ったカフェへと足を踏み入れた。
先ほど買ったお互いの服の可愛らしさを褒め合うなどという、こんな女の子らしい買い物をしたのは初めてだった。
いつも母親がついてきたり、シリウスとともに買い物に行っていたため友人と騒ぎながら服を選ぶというのが新鮮に感じられた。

「結構買ったわね。」

大量の服は持ち運びには不便なように感ぜられたので、私はそれが小さくなるような呪文をかけた。
するとリリーは凄いわ、と小さく感嘆の声を上げた。この魔法はそういえば授業では習っていなかった事を思い出した。
これはあの集まりで習得したものの一つなので、あまり深く聞かれたら困る。けれどリリーは家で日常生活において母親達が使っていると言い訳すると納得してしまった。

ふと気がつくと、隣のテーブルに座っていたのはグリフィンドールの先輩方でその二人はどうみても良い雰囲気だった。
リリーはこっそり私の耳元であの二人が付き合っていることを囁いた。
その男子生徒のほうは見覚えがあり、確かアーサー・ウィーズリーという名前だったような気がする。燃えるような赤毛がひときわ目立つ。
そして一緒にいる女子生徒は、ウィーズリーが彼女のことをモリーと呼んだので名前だけがわかった。

「いいわね、幸せそう。」

リリーがうっとりしたように二人をちらちらと見ていた。私は事態が自然と自分の思うように進んだ事に驚き喜んだ。
今日、リリーと出掛ける事を親に秘密にする代わりにシリウスに頼まれていたことがある。シリウスの親友であるポッターは予想通りリリーのことを好いているらしい。
別にポッターに頼まれたわけではないが、シリウスがあまりに進展しない二人の関係とポッターの泣き言にうんざりしてきたのも事実でどうにかしようと思い立ったとのことだ。
けれどシリウスはそんなにリリーと仲良く話す間柄でもなく、更に恋人がいるかどうかなどと言う質問をしてしまえば奇妙な勘違いが起こる可能性もある。
だから彼は悩んでいた、どうすれば親友の恋をうまく手伝う事ができるのか。
そこで気付いたのは私とリリーが友人だという点であり、更に今日一緒に買い物に行くということだった。
シリウスは私にリリーの恋愛情報を仕入れるように頼み、私は代わりにリリーのことを親に秘密にしてもらう事を頼んだ。

「リリーは好きな人とかはいないの?」

「残念な事に、まだいないわ。」

少し顔を赤らめるリリーが素直に可愛いと思った。そして同時にポッターなんかが彼女につり合うはずが無いと感じた。
あの嫌味で高慢なポッターと優しく素直なリリーとが付き合うなんて想像もできなかった。

「ポッターはどう思う?」

シリウスに頼まれていた質問の一番重要な項を私が口に出すとリリーの顔が突然険しくなった。
そして「あの人は嫌いよ」と彼女は冷たく言った、それに安心した私は頬が緩むのを隠すのに必死だった。
私もポッターのことが嫌いで、ポッターも私のことが嫌いであるから、リリーがポッターの事を好きであったら応援する事など出来ないからだ。

「リリーはどういう人が好きなの?」

さっきから質問されてばかりね、とリリーは微笑んだ。
私は少し気恥ずかしくなったが、これも大切な双子の兄のためであるからこらえた。

「そうね…、例えばだけれど、グリフィンドールだとルーピンみたいな人がいいわ。
 あの馬鹿な人達とつるんではいるけれど、きちんとしているし節度があるわ。」

ルーピンと言う言葉を聴いた瞬間に胸の奥を針で突かれたような痛みが襲った。
リリーがリーマスのことを好印象に思っていることはリーマスの友人としては嬉しい事である。
しかしそれなのに、心が痛むというのはどういう訳だか私にはわからなかった。ただの例えだと分かっているし、私の大切な友人同士が仲良くなってくれる事は喜ばしいというのに。
けれど、リリーとリーマスが手を繋いで微笑み合っている様子が頭の中に浮び離れてくれなかった。