Dilemma
がエヴァンズと出掛けているのを見計らって俺はアルファード叔父さんが滞在している部屋へと向かった。
どうしても今まで行方を眩ませていた間彼が何をしていたのかが知りたかった。
とても嫌な予感がするのだ、帰ってきた叔父さんは昔のままでありながらどこか愁いを帯びているように感じたからだ。
部屋をノックすると叔父さんがドアを開き、中へと入れてくれた。
俺がどうやって話を切り出そうか悩んでいるとアルファード叔父さんは窓の外を眺めながら言った。
「君が何を聞きに来たか私は分かっているよ」
叔父さんはすべてを悟ったように、俺に向き合った。
そして「これから言う事は真実だ」と重い口を開いた。その沈痛な面持ちに俺はこの部屋を訪れたのを後悔した。
彼にこんな表情をさせるくらいなら、聞きになんて来なければよかった。けれど、真実が知りたいと心が叫んでいるのも事実。
叔父さんはこのブラック家でいてもこの家に染まらない存在で、幼い頃から俺の憧れだった。
そんな彼がこんなふうに落ち込む理由はきっと、闇の組織と繋がっているのだろうと直感が言っていた。

「アロホモラ」と叔父さんは部屋に鍵をかけた。
大して効果があるわけではないが、これで少しは盗み聞きなどを防ぐ事ができると彼は言った。
そして溜息を吐き出してから叔父さんは語り始めた。
今思い返せば酷く浅はかだったあの頃の私はこの世でどうにもならない物など無いと信じきっていた。
たとえそれがこの忌々しいブラック家の純血思想であろうとも、染まりきらない自信がいつも私を支配していた。
卒業後はグリンゴッツ銀行に勤める事に決まり、エジプト支社の方で働いている間はブラック家の一員であるという実感は薄れた。
しかしどんなに闇の世界を嫌悪していて、染まるまいと思っていても自分はデスイーターの中心的存在であるブラック家の姓を持っている。
それ故に周囲からの偏見も優しいものではなかった、また私自身が学生時代スリザリンに属していたことも周知の事実であるために様々な困難が私を襲った。
だが、私には少ないながらも信頼できる友人がいたた。幾ら廻りが闇の世界に入り、自分を勧誘してきても断り続けてきた。
けれど、それは穏やかな交渉の類でしか通用しない事を後から思い知った。
実際に目の前に杖を突きつけられ、例のあの人の傍でデスイーターに脅された時に自分の無力さを思い知った。どうしても死にたくは無かった、生きたいと思った。
生きたいという衝動は嫌々ながらも私に闇の道を歩かせた。私の生死は闇の帝王の手に握られていた。
彼にとって、私の生死を決定するのは赤子の手を捻るように簡単だったのだろう。
腕に刻まれた闇の印を見るたびに襲ってくる後悔の念に苛まれながらも、私は彼に従い続けた。
彼は私が喜んでデスイーターになったわけではないという事を知っていた。
「アルファード、お前には重大な任務に就いて貰おう」
彼は、その任務が終われば私を自由の身にしてくれると誓った。しかしながら何故闇の帝王がそのような任務を私に任せたのかはわからなかった。
わざわざ私を使わなくても、その任務は他の人間でも出来るものだろうに。
任務の内容とは、ある一人の男の追跡と監視だった。その男はデスイーターでありながらも、ダンブルドア側である不死鳥の騎士団と連絡を取っているのではないかと言う疑惑があった。
私はその確認と監視を任せられたのだ。期限は三年間、私はすんなりとその条件をのんだ。
どうしても私は自由になりたかった、もうこの闇に居続けることなど耐える事ができなかった。
その男に取り入るのは簡単だった。元々、流されやすく闇の勢力と不死鳥の騎士団との間をふらふらとしているようだった。
そんな彼に同調するように振舞うだけで彼はあっさりと私のことを信用してくれた。
デスイーターでありながらデスイーターを止めたがっている人間を演じることは非常にナチュラルで私はそのままその役を演じきった。
三年目のある日、彼は私を信用してある計画について話した。
それはデスイーターの本拠地をダンブルドア側に教え、それを期に闇の世界とは縁を切ろうというものだった。
私は迷わず、この出来事をあのお方へと手紙で伝えた。それが仕事なのだ、と心に言い聞かせたが、指が震えて羊皮紙にはミミズのような文字が這った。
私は、私を信用してくれた人間を裏切ったのだ。
翌日にその男の家を訪ねたときには、屋根の上に闇の印が不気味に浮かび上がっていた。
それを見て私は家の中の様子を容易に理解することができた。彼は殺されてしまったのだ。
私は自分の自由と引き換えに、あの男を売ったのだ。
自覚した瞬間に怖ろしくなった、私は自由になどなるべき人間ではない。そして何時までもこの出来事に捕らわれ続けるのだろう。
夢の中にはあの男が私を責めるように現れ、朝目を覚ませばどうしようもない罪悪感が私を襲う。
自由はわが手からするりと抜け落ちていった。
俺がアルファード叔父さんの話を聞いて呆然としている間に彼は続けた。
「だから、君とに会いたかったんだ。ここにいては、いつか闇の世界に引きずり込まれる。
抵抗するにはまだ力が足りない。入ってから抜け出そうなんて甘い考えは通用しない。
裏切り者に待っているのは『死』のみだ。」
アルファード叔父さんの目は鋭く俺の心を射抜いているようだった。
優しい彼にとって、その経験がどれほどつらいものだったのだろう、想像もつかなかった。けれど彼の心に広がる悲愴はもう消える事はないのだろう。
「逃げるには準備が要る。そのときにはこれを使って欲しい。それを渡すためにここに来たんだ。」
彼が俺の手に乗せたのは鍵だった。
「これは銀行の鍵だ。グリンゴッツに秘密の口座があってある程度の纏まった金額が入っている。
それを君達が将来を決める際に使って欲しい。」
「叔父さんのだ。俺は使えないよ。」
「いや、と君で使ってくれ。
幸いな事に、私には妻も子供もいない。残りの人生でこれを使いきる自信はないんだ。」
彼は少し寂しげに笑った。その様子がとても儚く見えて涙が出そうになった。
この人に本当の自由が訪れる事を俺は願った。