Dilemma
この頃のシリウスは何かを考え込んだり、部屋に篭っている事が多くなっていた。
時々、部屋を尋ねると私たちの能力と比べると難しそうな変身術の本が沢山積んであった。
私は、シリウスが何を考えて計画しているのかを何も知らなかったが、聞く事が躊躇われた。
それは私が関わっていい事ではないと感じた。彼は私が部屋に来ると、心なしか焦っているように見えた。
シリウスが私にそれを教えてもいいと判断するまで黙っていようと思った。
教えてくれないということは、私が必要とされていないことを示しているようで少し悲しくなった。
私も一人で部屋に篭るようになったのだが、次第に不思議な事が起こるようになった。
どうしてもあの日思い浮かんだリリーとリーマスの仲睦まじい光景が目に浮び離れなくなったのだ。
そしてそのたびに、胸が締め付けられるような苦しさが襲ってくる。
苦しみは寂しさによく似ていて、私はその感情がなんであるかを測りかねていた。
それ故に残りの夏の間、シリウスと過ごす時間は減っていきその代わりに頻繁に訪ねてくるルシウスと過ごす事が多くなった。
彼は私とレギュラスに様々な話をしてくれたし、マルフォイ家にもよく遊びに行った。
そのことをシリウスに報告すると彼は少し複雑そうな表情を浮かべて、「そうか」とだけ言った。
私はまたそのシリウスの態度に対して寂しさを覚えた。シリウスは私がいなくても平気になってしまったのだろうか。

「それでは行ってきます。」
ホグワーツ急行に乗り込むレギュラスは少し緊張した面持ちだったが、それを表面に出さないようにしていた。
けれども私とシリウスにはその様子が手に取るようにわかったので、すこし口元が緩んだ。
成長したといってもまだまだレギュラスは可愛い弟である。
今年はシリウスポッターたちのところへ行かずに私とレギュラスと同じコンパートメントに乗り込んだ。
私は心地よい勝利の優越感に浸りながら、落ち着いた列車の旅を過ごした。
「レギュラスは何処の寮に入りたい?」
私は新入生にとっては聞き飽きたであろう質問をレギュラスにしてみた。
私たちが心を躍らせながらも同時に諦めていた組み分けの儀式を彼がどのように感じているのか知りたかったのだ。
「もちろん、スリザリンです」
するとレギュラスは何の迷いもなく、ブラック家に相応しいのはスリザリンですから、と口にした。
そして一瞬だけちらりとシリウスのほうに目を向けた。その視線はベラトリックスがシリウスに向けるものによく似ていた。
背中を何か冷たいものが通った気がした。
シリウスは気付いているが、あえて気付かないふりをしていた。そしてそれ以上レギュラスも組み分けについてコメントしなかった。
汽車がホグワーツに到着した。レギュラスはハグリットに引率されて他の一年生と共にホグワーツへ向かう事となった。
私とシリウスはそれぞれの向かう場所へ分かれた。シリウスが向かう先はポッターがいる場所だった。
シリウスがポッターに向ける笑顔は家にいたころのものとは全然違う。
悔しく思いながらもそしてリリーのことを探してみたのだが、なにしろ人が多すぎて中々見つからない。
偶然見つかったセブルスと私は共にホグワーツへ向かった。
大広間で組み分けが始まった。
去年よりもスリザリン、そして他の寮の生徒もこの組み分けに注目していた。
その注目の的はレギュラスだった。
一昨年の組み分けでは、ブラック家の次期当主であるシリウスがグリフィンドールに入るという予想外の展開が起こった。
スリザリンはあの悲劇が繰り返されない事を祈り、他の寮はハプニングが今年も起こることを期待したのだ。
「ブラック・レギュラス」
レギュラスの名前が呼ばれた瞬間に会場は一気に静まり返った。
私はレギュラスが緊張していないだろうか心配で首を伸ばして前を覗いた。
隣に座っていたベラトリックスとナルシッサも興味深そうにその様子を伺っていた。
けれども彼はすっと落ち着いた様子で前へ進み出て、帽子を被った。
しばしの静寂の後帽子は高らかに叫んだ。
「スリザリン!!」
静寂の後にスリザリンからは拍手が、それ以外の寮からはがっかりしたような溜息が聞こえた。
レギュラスは帽子を脱ぐと満足そうに微笑みながらスリザリンのテーブルへと歩いてきた。
「スリザリンへようこそ」
「おめでとう。」
様々な祝福の言葉がレギュラスにかけられた。
その光景は、ブラック家の人間がどれほどスリザリンにとって求められているかがわかるものだった。
ここでレギュラスがスリザリンに入った事によって、シリウスがグリフィンドールに入ったということがいかに異様だったかを思い知った。
私はシリウスが今どうしているかが気になって、グリフィンドールの方を見た。
すると、シリウスは人に囲まれたレギュラスのほうをじっと悲しそうな瞳で見つめていた。
ああ、シリウスはレギュラスの事を大切に思っているのだ。だからこそ、叶わぬ期待だと思いながらもレギュラスがグリフィンドールに入る事を願ったのかもしれない。
「姉さん」
そんなことを考えていると突然レギュラスに声を掛けられた。
入学おめでとう、と私が言うと彼は少し照れながら「ありがとうございます」と言った。
制服を着たレギュラスの姿が二年前の今日のシリウスと重なった。あの日私たちはバラバラになったのだ。
彼とレギュラスはよく似ている。けれども、彼らは別の道を歩んでいる。
いままでずっと、シリウスの後を追いかけてきたレギュラスだったがこれから彼らは別々の道を歩むのだ。
レギュラスはシリウスの事をブラック家の恥であると思い始めている。
それは仕方のないことであると私は思う。
レギュラスにとっての世界は今まで、ブラック家の中だけであったからだ。
私にはシリウスがいたから、ブラック家の純血思想に対しても違和感を覚える事ができた。
そして、これからレギュラスは兄に代わってスリザリンらしくブラック家らしく振舞うようになるだろう。
ベラトリックスやルシウス達がそれを助長させるに違いない。
私は今後予想されるシリウスとレギュラスの関係を不安に思った。
二人の兄弟間の関係が冷め切ってしまったら、悲しすぎる。
すると、正面に座っていたアンドロメダとふと目が合った。
彼女は私が考えている事を見通しているように、憂いを含んだ表情で微笑んだ。
「、今はレギュラスの入学を祝いましょう。」
小声だったが、私にはアンドロメダの言葉がはっきりと聞こえた。
そうだ、これからがどうなるかなんて誰にもわかることじゃない。
私がうじうじ考えたからといって、未来が変わるわけでもないのだから。
今はただ、祈る事だけしかできない。