Dilemma


レギュラスの入学以降、特に変わった事は起こっていなかった。
あの集まりも続いていたし、そこにはもちろんレギュラスも加わった。
私といえば、ダイアゴン横丁で購入した本を使用してリリーと連絡を取っていたのでセブルスの機嫌を損ねることもなく、ポッターの冷たい視線を浴びる事もなく平和に過ごしていた。
リリーがグリフィンドールでの出来事を色々と日々書いてくれる、そして私もスリザリンでの生活を書き連ねる。
こうして私達の友情は繋がっていた。

また、この頃のナルシッサはとても積極的にルシウスにアプローチをかけていた。
前々から気付いてはいたがそれがさらに一層明らかになってきた。ルシウスはそれに対して何のリアクションも起こさなかった。
彼女に接する時には普段と同じような態度で、嬉しそうな素振りも鬱陶しそうな素振りも何も見せなかった。
よく考えてみるとルシウスは誰とも婚約していなかった。あのマルフォイ家の長男が婚約していないということは驚くべきことだ。
ふつう、純血の魔法使いの家の息子、娘達は幼い頃から親に決められた婚約者がいる事が多い。
私とシリウスにもよく考えてみるとまだ婚約者は居なかった、今までそんな話が家で出た事はなかった。
ベラトリックスはレストレンジ家の息子と婚約している。しかし他の従姉たちに婚約者がいるという話は聞いた事がない。
ナルシッサはきっとルシウスと婚約したいに違いない。
親に決められた婚約を私達子供が拒否する事はできない。それがブラック家の慣わしだった。
もしアンドロメダに婚約者が出来たら、彼女はどうするのだろう。









三年生になって変わったことといえば週末にホグズミード行きが許された事だろう。私達は各々ホグズミードで自由時間を過ごす。
今まで二年間の間はホグワーツ以外の場所へ行く事ができなかったから、ホグズミード行きは生徒達の憧れでもある。
生徒達はホグズミードで例えばゾンコのいたずら専門店で悪戯グッズを買い漁ったりハニーデュークスで美味しいお菓子を調達したり、3本の帚でバタービールで乾杯したりする。
そして今日は始めてのホグズミード行きの日だった。アンドロメダは体調が悪いらしく寮で眠っていた。
私はセブルスと一通り村を廻った。
途中で叫びの屋敷も見た。叫びの屋敷には幽霊がでるらしいという話をセブルスから聞いた瞬間にリーマスのことを思い出してその場を早く離れた。
傷だらけのリーマスの事が頭に浮んで楽しい気分が一度に吹き飛んだ。

次に私とセブルスはハニーデュークスへ入ったが、セブルスは立ち込める甘い香りにノックダウンされて外で待つことにしたらしい。
一人で店内をうろうろと物色する、砂糖で出来た羽ペンやゴキブリゴソゴソ豆板、血の味がするペロペロ・キャンディなどが珍しく、興味を引いた。
そして棚の上のほうに綺麗な色のキャンディーが詰まった小瓶を見つけた。
とてもかわいらしい色とりどりなキャンディーに私は手を伸ばしたが、何しろ棚の一番上においてあるので私には取れない。
一度店外に出てセブルスにとって貰おうかなぁと思った瞬間、ひょいと誰かの手がキャンディーを掴んだ。

「はい、欲しかったんでしょ?」

それを取ってくれたのはリーマスだった。
イギリスは秋になるともうめっきり寒いので、彼はグリフィンドールカラーのマフラーを巻いていた。

「ありがとう、リーマス一人できたの?」

するとリーマスは店の外のドアへと視線をやった。

「シリウスが甘い物苦手だからゾンコのほうに皆で行ってるんだ。」

確かにシリウスは甘い物があまり好きではないのでこの店の匂いには耐えられないだろう。
ポッターと会うことがなくて私は安心した。ここで会ったらさらに気分が落ち込むと思ったからだ。
私はさっき見た叫びの屋敷のことを思い出さないようにと話題を変えた。

「リーマス身長伸びたよね?」

「そうかな、自分ではそんなにわからないけど。」

「伸びたよ。男の子はにょきにょき伸びるから悔しい。
 私なんて全然伸びないのにシリウスも無駄に大きくなっていくんだよ。」

するとリーマスは声を上げて笑った。
そんなに笑わなくてもいいのに、と私が頬を膨らますと彼はごめんと謝った。けれど顔は笑ったままだ。

はそのままが一番似合うよ。」

私は急に恥かしくなって早く違う話をしようと頭の中で何か適当な話題はないかと探した。
そして思い当たったのが、テッド・トンクスのことだった。
アンドロメダと付き合っているようだが、私は彼のことをあまり知らなかった。

「そういえば、テッド・トンクスって知ってる?」

リーマスは突然の話題転換に驚き、さらにそれがテッド・トンクスの話だという成り行きを不思議に思っているようだった。
しまった、これでは何か勘付かれてしまう、と思ったが一度言葉にしてしまったからには続けるしかない。

「ああ、グリフィンドールの先輩だからね。」

「どんな人なの?」

私の問う声には相当熱が入っていたのかもしれない。リーマスは少し悩ましげな表情をした。
突然すぎたのかもしれない、確かに私はテッド・トンクスと何のつながりもないのだから、不審に思っても仕方がない。

「まあ良い人だよ。みんなに優しいし、クディッチの選手でもあるね。」

その後にリーマスは「もしかして好きになったとか?」と付け加えた。
私はその言葉に驚愕して「まさか!」と叫んだ。こんな勘違いを生むだなんて思って居なかった。
何故だかわからないがリーマスに勘違いされるのはとても嫌だった。早急にこの誤解とかなくてはいけない。

「違うよ、ただ友達に頼まれただけよ。」

とても苦しい良い訳だったがリーマスは頷いて少し表情を緩めた。
この雰囲気に居た堪れなくなって私は会計へと向かおうとした。
また、遂に痺れを切らしたセブルスが意を決して店内に入ってきてこちらを見て顔を顰めた。私はその時までセブルスが店外で待っていることを忘れかけていた。
それを見て私とリーマスは「またね」とアイコンタクトで伝え合って、分かれた。

「遅くなってごめん。」

セブルスは少し不機嫌そうに、ルーピンと一緒だったのか、と呟いた。
ポッターたちの仲間であるリーマスの事を相変わらずセブルスは好きになれないらしい。

「三本の箒にいこうか」

そしてセブルスと私は三本の帚でバタービールを注文した。
一口飲むと体が芯から温まるような気がした。セブルスも少しいつもより血行が良くなっているように見えた。
暖かい店内でバタービールを飲む。とても幸せな空間だった。