Dilemma 帚木の梢

寮に変えるとすぐに狂ったように羽ペンを紙の上に滑らせるベラトリックスを見て、恐怖を覚えた。
それほどさっきのことは重大だったのだ。
彼女がそれをフクロウに渡し「ブラック家へ届けて」と言うと真っ黒なフクロウはホウと鳴いて夜闇にまぎれていった。
フクロウの後姿を見送ったあと、「今日はもう寝ないといけないわね」と独り言のように呟き部屋に入っていった。

新しい生活に夢見ていた私だったが、その中には常にシリウスがとなりにいた。
初めてシリウスのいない生活を送らなければいけなくなった私は何に縋ればいいのか分からなかった。

同室の女の子達が寝静まったあと、私は窓の外の暗闇を眺めた。
シリウスは今、どうしているのだろう。
明日からどんなふうにシリウスに接すればよいのか分からない。今までどおりでいいのだろうか。

グリフィンドールとスリザリンの間にある深い溝があんなに深いものだったなんて、このとき私は知らなかった。










記念すべき最初の授業は魔法薬学だった。薄暗い地下牢のような教室に足を踏み入れた。
寮で同室の女の子達と一緒に席へと付いた。私達が教室に入るのは一番だった。
ぞろぞろと入ってくるスリザリン生とグリフィンドール生。そう、この授業はグリフィンドールと合同なのだ。

そんな中にシリウスを見つけた。となりを歩く黒髪がくしゃくしゃにした男の子と楽しそうに話していた。
今まで家で見たこともないような笑顔を浮かべ、教室へ入ってきた。
私は、ちゃんと友達できたんだな、と少し安心した。グリフィンドールの中でやっていけるのか不安だったから。
でも、同時に寂しさもこみ上げてきて私も心をかき乱した。

シリウスの新しい生活に私はいらない。

スリザリン寮監であるスラグホーンは魔法薬学の教師だ。
彼の指示で私達はふくれ薬を調合することになった。

「ふくれ薬にどのような効き目があるか分かる人」

スラグホーンが生徒達に問いかけると一人の手が上がった。
それはリリーだった、リリーはグリフィンドールに入ったのだ。

「ふくれ薬は名前の通り、飲んだものの体をふくれさせる薬です。」

答えは正解で、スラグホーンは満足そうに笑いながらグリフィンドールに五点を与えた。
リリーも嬉しそうで、席につくとまわりのグリフィンドール生とクスクスと笑っていた。

二人一組で調合をすることになった。しかし、私のいる友人グループは奇数だ。誰か一人仲間はずれになってしまう。
それを女の子の一人が先生に言うと、彼は私のほうを見た。

「ブラックはスネイプと組みなさい。」

スネイプとは誰だろうと思っていると、スリザリンカラーのネクタイをした男の子が近づいてきた。
黒い髪でお世辞にも体調がよさそうとはいえないような白い肌。
他人を寄せ付けないような雰囲気を纏っていて、家にいたころのシリウスに似ているなと思った。

「セブルス・スネイプだ。」

自己紹介をしてきたのでこっちも笑顔で応対する。

・ブラックよ」

スネイプと呼ぶと、セブルスでいい、といわれたのでそれに従うことにした。
こちらだけ名前で呼ぶのも変だと思ったので私も名前で呼んでもらうことにした。

大鍋に切り刻んだ薬草やナメクジなどを入れて火にかける。
彼は教科書をすべて暗記しているようだった。
私は常に教科書を見ながらナメクジを切り刻んでいたがセブルスは何も見ずに火力の調節や薬品を鍋に入れるタイミングを完璧にこなしていた。

「十回右に回したら今度は左に五回。それを色が透明に変わるまで繰り返せば完成だ。」

私は大鍋をセブルスの言うとおりに混ぜた。右に十回左に五回。
するとしばらくして薬に透明感が出てきた。
後ろから周りを見て廻っていたスラグホーンが声をかけてきた。

「君達がこのクラスで一番だ、十点あげよう。」

そして周りの生徒に私達の鍋を見るように言った。
同じ部屋の女の子達が口々に、すごいわね、と私達を褒めたてた。
その姿が何だか、家にいたころを思い出させた。周りの親戚達がブラック家の次期当主シリウスを褒め称えている様子に似ていた。
しかし不思議だった。私はいつもおまけの様に、かわいらしいわね、と付け加えるように言われてきたが、こんな風にわざとらしくほめられることなんてなかった。

期待の矛先が何時の間にシリウスからか私に向かい始めたことに私はまだ気付いていなかった。

シリウス達は私とセブルスの鍋を遠巻きに見ているだけだった。
他のグリフィンドール生も同じで、あまり近くには寄ってこなかった。
ああ、これがグリフィンドールとスリザリンとの関係なのか、と気が付いた。

授業が終わったあとも、シリウスに声をかける暇もなくスリザリンの女の子達に囲まれ次の授業へ向かった。
これではシリウスと連絡を取ることもあまり出来そうにないなと思った。
シリウスのほうも黒髪の男の子と鳶色の病弱そうな男の子、そしてあの日船でであったピーターを連れて何処かへ歩いていってしまった。

後姿を見送りながら、あとで手紙でも送ろうと思った。
話したいことが沢山ありすぎる。
同じ学校で同じ学年なのに手紙を送るなんて変かもしれないと思ったが、気にしないことにした。
いくら双子だからといってグリフィンドールに近づいてばかりだと両方の寮からあまり良い目で見られないだろう。
ホグワーツでこんなに気を使う羽目になるとは思ってもいなかった。
シリウスがスリザリンに入ってくれていたらこんなことにはならなかったのにな、と少し双子の兄を恨んだ。

魔法薬学以外、初日の授業はグリフィンドールと重なることはなかったので穏やかだった。
ハッフルパフやレイブンクローと合同授業の時はそうでもないが、グリフィンドールと授業が一緒だと雰囲気が重い。
針で皮膚を刺されるような視線とぴりぴりした空気が教室中に充満しているような気がした。

スリザリンからは闇の陣営へ加わるものが多く、グリフィンドールからは不死鳥の騎士団に入るものや闇払いになるものが多い。
それ故に、相容れない関係が学生にも伝わっているのだろう。


勇気と狡猾さはうまく共存できないらしい。