Dilemma 帚木の梢

家からフクロウが手紙を運んできた。
シリウスの様子を監視するように、という内容に付け加えられたようにスリザリン寮に入れたことに対する祝いの言葉が書いてあった。
いつだって私はシリウスのおまけなのだと思い知ることに傷つくことも、もうない。
生まれてからずっと、私は次期当主の妹なのだ。
それ以外の何者でもなく、両親の世界はシリウスが中心に廻っている。
そんなシリウスがスリザリン寮に入れなかったことに彼らは怒り狂っているはずだ。

きっとシリウスにも手紙が届いているのだろう。
シリウスを攻め立てる言葉がそれには連なっているのだろう、シリウスは傷つくかもしれない。
けれど、私には分かる。彼は親の言葉にはもう従うことはないのだろう。
初めて手に入れた自由をみすみす手放すほど、彼は愚かでない。むしろ、その逆。

あんなに楽しそうなシリウスを何者も縛り付けることなんて出来ない。
寂しいといえば寂しいけど、少し私は嬉しかった。シリウスの世界はいままでブラック家だけだったから。
それ以外の世界を知ることは素晴らしいことだと思うから。

例え私が新しい世界を見ることはできなくても、せめてシリウスだけは自由に生きたっていいんじゃないかと思う。









、今日は授業の後何も予定は入れないでおきなさい」

そろそろホグワーツにも慣れてきた頃ナルシッサが朝食を食べている私の耳に囁いた。

「授業終了後スリザリン寮の談話室にいなさい。」

そして、このことは誰にも言っちゃ駄目よ、と付け加えた。
一体何があるんだろう、と私は不思議に思ったが寝起きの私はそれについて深く思考することができなかった。
一気に牛乳を飲み干して、早く目が覚めることを願った。
次の授業は飛行術だから途中でうたた寝でもしたら箒から落ちてしまうかもしれない。

また、飛行術の授業はグリフィンドールと合同なのだ。気を抜くことは出来ない。
あの雰囲気の中でボーっとしていると息が詰まってしまうかもしれない。

最近気付いたのだが、グリフィンドールとの合同授業の時、周りの様子がおかしい。
グリフィンドールは黒髪のジェームズ・ポッターという生徒とシリウスを中心に集団をつくりスリザリンは私を中心に人が集まってくる。
ポッターは人脈がありグリフィンドールのなかでシリウスとともに中心的人物となりつつあった。
しかし、私はどうだろう。大して目立つところもないし、人付き合いがうまいほうでもない。いたって平凡な存在だ。
では何故、人が集まってくるのか…?

答えは簡単。ブラック家だから。

スリザリンでは純血が最も尊ばれる存在である。そのなかでもブラック家は特別。
シリウスがスリザリンに入らなかった時点でたくさんの生徒は親にそのことを知らせただろう。
そして帰ってきた手紙には、・ブラックと仲良くしろ、とでも書いてあったのだろう。
そうやってブラック家に近づいて、自らの家もブラック家と何らかの形で関係をもちたいとでも思っているのだろう。
汚い大人の考えることだ。

シリウスとはまだ連絡を取れていなかった。時々廊下ですれ違い目線をあわせるだけだった。
彼も私に話しかけづらい様に私もシリウスにどのタイミングで話しかければよいのか分からなかった。
手紙を書くにも自分の部屋や寮では親友決定戦が女の子の間で繰り広げられており、プライベートなことはできなかった。

「箒に向かって『上がれ』というのですよ。落ち着いて、箒に馬鹿にされないように」

フーチ先生はきりりとした声で箒を手に取った。
生徒達も箒を地面に置き、真似をした。

「上がれ」

一斉にあちこちから同じ台詞が繰り返される。一回で上がる子もいれば箒がピクリともしない子もいる。
私はというと、昔から家では飛行の練習をさせられていたのでこれぐらいはできる。
シリウスも同じだろうと、ちらりと一瞬だけ見てみるとつまらなさそうにピーターの箒を眺めていた。
私の隣にいたセブルスは二回目の命令で箒が手の中に納まり、満足そうだった。
しばらくすると大抵の子はみな箒を手中に収めることができたので、フーチ先生は次のステップの授業を行うことにした。

「みんな箒にまたがって。そして私が合図をしたら地面を蹴って少しだけ浮かんでください」

合図に合わせて地面を軽くけると簡単に宙に浮いた。この浮遊感は心地よい。
箒も私のことを馬鹿にする様子もなく、とても順調だった。セブルスも私と同じくらいの高さに浮かんでいた。
順調に授業は進み、私達は自由時間を与えられた。その間競技場内なら好きな高さや方向に飛んでもいいと先生は言った。

「宙を浮くのはやっぱり楽しいね、いつも鳥になったような気分になる。」

「そうか?僕はそんなに良い物だとは思わないな。姿現しのほうが時間の短縮になる。」

姿現しはまだできないわよ、と私がセブルスに言うと彼はそんなこと知っていると睨んだ。
あまり安定感のない帚がセブルスはお気に召さないらしい。

「もうちょっと、あっちのほうに飛んでみようよ」

セブルスと一緒にいるのはとても気が楽だった。
女の子達は私の周りでいつも私の家柄だとか黒髪だとかを褒めちぎり、親友になろうと擦り寄ってきた。
そんな友人関係は苦手だ。主従のある関係なんて友人関係とは呼ばない。
セブルスは私に媚びなかった。魔法薬学で出会ったときから、私の機嫌をとったことはなかった。
いつも自分の意見ははっきり言うし、それに色々な方面に関して広い知識を持っていた。
一部、興味の範囲が偏っていたのだが、私にはとても面白い話し相手だった。

そういうわけで、セブルスと私は行動を共にすることが多くなっていった。