Dilemma 帚木の梢

ナルシッサに言われた通りに寮の談話室で時間を過ごしていたら、セブルスを連れているルシウスがやって来た。
何でも、ナルシッサに私を呼んでくるように頼まれたらしいセブルスにルシウスが付いてきたらしい。
言われるままに寮を出てルシウスについていくと、突然廊下にかかっている危なげな蛇の絵の前で立ち止まった。
その絵は私の身長よりも大きく、不気味に一匹の大きな蛇が蠢いていた。

「純血よ永遠にあれ」

蛇の頭をそっと撫でながらルシウスが言葉を発すると、絵から色が消えてゆき扉になった。
その扉を押し開けると目の前にもう一つ扉があった。
細かい彫刻が施してある大きな扉はギギギッと音を立ててひとりでに開いた。
中には広い部屋があり、寮の談話室によく似ていた。ソファーにはナルシッサとアンドロメダが座ってなにやら話し込んでいた。

「シシー、アン。」

私は恐る恐る声をかけた。









、待ってたわ。」

ナルシッサはソファーーから立ち上がり私の所へ駆け寄ってセブルスにお礼を言った。
ルシウスが少し遅れて部屋の中に入ってきた。

「ルシウスもありがとう、を連れてきてくれて。」

ナルシッサはにっこりとルシウスに向かって笑いかけた。
いつもより高めの声で可愛らしい笑顔を浮かべるナルシッサをみて私はなんとなく気付いた。
きっとナルシッサはルシウスのことが好きなのだ。
けれど、私が口を出すようなことではない。もう少し、ナルシッサの様子を見てみようと思った。
従姉の恋が叶えば良いな、と私はナルシッサとルシウスを交互に眺めた。

しばらくすると少しずつスリザリン寮生、中でも純血意識の高い家柄の者達が集まってきた。
スリザリンが多いが、少しだけレイブンクローやハッフルパフの者も混ざっている。
例えば、我がブラック家、マルフォイ家、レストレンジ家。
その時私はやっと、この集まりがなんであるのか理解することができた。

夏休みに従姉達が熱く語ってくれていた、集まりのことを何故忘れていたんだろう。

その集まりに名前は無かった。名前などは必要なかった。
闇の帝王がホグワーツ在学中に創った集まりで、この集まりは多くのデスイーターを排出してきた。
そして、ここは死喰い人と繋がっている、すなわち闇の帝王と深く関わっている。
スリザリンの中でも特に選ばれた存在しかここに来ることはできない。

つまり、ここは将来的に闇の帝王に行き着く。

ナルシッサやベラトリックスがこの集まりに陶酔しているわけだ。
ここにいれば、ほぼ確実に闇の帝王のお近づきになれる。それは純血至上主義のの魔法使い、魔女にとって大変名誉なことなのだ。

「新しいメンバーを紹介しよう」

唐突に六年生のロドルファス・レストレンジが集まった寮生に声をかけた。
ロドルファスはベラトリックスと最近婚約したばかりだ。純血の名家の一つで、ブラック家と親交も深い。
私には政略結婚にしか見えなかったが、ベラトリックスにとってはそれでも満足らしい。

彼女は従姉の中で最もブラックらしい存在だった。
そんなベラトリックスだが、彼女は家を継ぐことはできない。
このブラック家を継ぐことができるは、ブラック家直系だけだ。
つまり、次期当主がシリウス、その次にその権利を持つのはレギュラス。最後に私だ。
ベラトリックスがこの家を継ぐことはまずないだろう。
だからこそ、彼女はブラック家に尽くすためにレストレンジと結婚することにしたのだ。

セブルスの名前や他の新入生の名前が呼ばれていく中で私の名前は中々呼ばれなかった。
忘れられているのかと思っていた、別にそれはそれでいいし、怒ったりなんかもしない。

「そしてスリザリンの新星、・ブラック」

頭をフライパンで殴られたような衝撃が襲った。
私がスリザリンの新星だって?
ナルシッサが私の背中を軽く押して一歩前へと出された。視線が一気に自分へと集まるのを感じた。
アンドロメダと目が合ったが彼女は困ったように微笑んだ。

もし、シリウスがここにいたのなら、こんな視線を受けることはなかっただろう。
尊敬や嫉みが入り混じった、ちくちくとした視線。
シリウスが今まで受けてきて、これから受けるはずだった物がすべて私に移ってきたのだ。

一通り紹介が終わった後に、この集まりの趣向について詳しく話された。
月に一回程度集まり、数人で毎回、自分達が調べたり作った魔法などを発表するらしい。
例えば、それは人に言えないような呪文や魔法薬などもここでは許されてしまう。
むしろ、それがメインだ。
闇の魔術に限りなく近いものに学生の頃から慣れることによって卒業後に備えるというわけだ。

ここから今すぐ逃げ出したい気分だった。
私は闇の世界にどっぷり浸かる気はなかった。ある程度は家柄のせいで仕方ないと思っていたが、自ら進んで闇の魔術に近づこうとしたことはない。
しかし、セブルスは黒い瞳を爛々と輝かせ、説明を聞いていた。
抜け出したいけれど、ベラトリックスやアンドロメダ、ナルシッサがここに属している限り私は逃げられない。
両親も、私がこの集まりに属していると聞いたらきっと喜ぶのだろう。

シリウスがグリフィンドールに入ってから母が情緒不安定になったとレギュラスから手紙が来た。
そんな母を少しでも喜ばせたかった。
そうすれば、シリウスが両親から許してもらえるかもしれないと思った。
けれど、ここに属してしまえばシリウスに軽蔑されるような気がした。
今以上に距離が広がってしまうのではないかと怖かった。
今でさえ、授業で姿を見て目を合わせるぐらいしか接触がないのに、それさえも無くなってしまったら。
双子だから離れても気持ちが通じ合ってるなんて嘘八百だ。
私とシリウスの心が通じているというのならこんなに毎日不安にならないはずだ。

しかし、私は離れているシリウスよりも身近なスリザリンを選んだ。
この集まりから逃げる勇気も持っていないから、私はグリフィンドールに入ることはできなかった。
シリウスは暗闇から逃げ出すことができたのだ。
その逃亡には酷く勇気や決断力が必要だったのだろう。私が持たないような。

こうやって、私は闇の中に消えていくのだ。